第5章:新たなる旅路で
第92話 ルナとヴァーノ
キォーツの町を発ってから数日が経った。ソールとルナは、未だに慣れない二人以外との旅に何処かぎこちなさを感じていた。
「……ねぇ、ヴァーノ。アンタにこの間から訊きたい事があったんだけど」
と、次の町に向かう道のりの途中でルナがヴァーノに問いかける。
「何だ?」
「どうして、あの時、騎士団の皆を見捨てたの?」
その問いが放たれた瞬間、ソール達一行はその足を止めた。その場の空気が凍り付くのを、少年は感じ取った。
「何を藪から棒に」
「ずっと考えてた、けれど、私の頭の中で考えて出た答えなんて推測でしかない。だから、アンタ達に直接訊こうって決めたの」
ルナはヴァーノとウォルを真正面から見据える。
「だって、アンタ達はずっと私達の事を見てきたんでしょう?それなら、あの魔導士が襲って来た時だって、そう遠くない所に居たはず。それこそ戦いの間合いに入ることが出来るくらいにはね。でも、アンタ達は現れなかった。アンタ達が騎士団に協力していれば、皆でまだ旅を続けられていたかもしれないのに!」
それは、ルナの胸中の叫びそのものだった。ソールはそれが痛いほどわかっていた。
(ルナ……言いたいことは、伝えたいことは分かるよ。だけど……)
「オレ達は、あそこには入れなかった」
ヴァーノはその問いに対して、実に簡素に言い放った。
「それってどういうことよ?」
「ルナ……?」
ルナは、隣で不安そうに自分の顔を見上げるコハルを他所に、ヴァーノに詰問する。
「どうも何も言葉の通りだ。オレ達はあの場ではどうすることも出来なかった、ただそれだけの事だ」
ヴァーノは懐から取り出した煙草に火を付け、口に咥える。
「以前にも話したが、オレ達は仮にも『教会』側の人間だ。『魔導』を司る機関として、それを悪用する輩を排する責務を負っている。だがそれと同時に、国の秩序を司る王国騎士団には目を付けられていてな。どうにもヤツらは、オレ達『魔導士』を忌み嫌っているらしい」
ヴァーノは煙を吐き、続ける。
「そんな奴らに加担してみろ。オレ達は真っ先に『教会』の手先だと断定され、加勢した所でいずれ牙を向けられる。それにあのギルは、オレ達と同じく『教会』に属している魔導士だ。そんな二者の争いに踏み込んだとして、オレ達には何の得があるって言うんだ?」
その言葉を聴いて、ルナは沈黙した。しかし、それは納得したからという訳では無かった。
(ルナの言い分も、ヴァーノさんの言い分も分かる。けれど……)
ソールは双方の立場を考えた上で、
「……それじゃ、ヴァーノさん。僕達に付くって決めたのは、どうしてなんですか?」
話の流れを変えるべく、別の疑問を口にした。
「……それこそ、オレ達の得にはならないことだったんだがな。ただ、コイツの言うことに乗ってやろうと思っただけだ」
そう言ってヴァーノが親指で指したのは、ウォルだった。
「……」
ウォルは居心地の悪そうに俯いていた。
「アンタが……どうして?」
ルナは
「……昔の私達に似ていたから、かな?」
そう言ったウォルの口元は微笑みを湛えていた。
「もういいだろう。こんな所で足を止めている場合じゃないんだ。行くぞ」
ヴァーノは口から煙を吐き出すと、煙草の火を消して歩を進めた。
「……」
ルナはウォルの答えに悶々としながらも、ヴァーノの後を付いて行くのだった。
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