第91話 新たな仲間と共に
ソールとルナ、そしてコハルの三人は、キォーツの町の外れまで来ていた。
「遅いぞ、もう出発する」
三人の進行方向からそう声を掛けたのは、魔導士ヴァーノだった。その傍らにはウォルも居る。
「ヴァーノ、そんな言い方は無いでしょ」
「……フン」
ウォルに注意されるが、ヴァーノはそっぽを向いて煙草を口に咥える。
「ごめんなさい、遅くなってしまって」
ソールが二人に謝る。
「ううん、大丈夫。元々、時間に余裕が持てるようにこの時間に指定したんだし。ヴァーノだって、本当は怒ってなんか無いんだよ」
少年の素直な反応に、ウォルは優しく返した。
「それにしても、アンタ達と一緒になるとはね」
ルナは腰に片手を当てて若干辟易したような態度で言った。
「……」
するとウォルは気まずいようで、視線を下に向けた。それを察したのか、
「冗談よ。成り行きでこうなったのは正直驚いたけど、アンタ達に敵意が無いんだったら別に気にしないし。それに、大勢の方がこれから先、色々と助かるというか……」
ルナは調子が狂ったと言わんばかりに少し慌てた様子だった。
(ルナってこういう時、大抵強気だから相手が尻込みするんだけど……ウォルさんは特に相性が悪いのかな?)
と、ソールはやれやれと溜め息を吐いた。
それは、昨日の事だった。
『さて、これで一件は落着したといった処か』
ヴァーノは両の掌を叩く挙動をしながら言った。
『ウォル、言いたい事があるんだろう?』
そう言って、ヴァーノはウォルに発言を促した。
『……ソール君、それにルナちゃん。二人の旅に、私達も同行するわ』
『えっ!?』
ウォルの不意な言葉に、ソールとルナは驚いた。
『どうして、ですか?』
『……私達は、ソール君、君が持ってる時計を目指して、ずっと調査をしていた。悪人の手に渡って、それが利用されないように。教会の命を受けて、ね。でも、最近になって、教会の思惑が怪しくなって来たの。だから、ヴァーノと私は、私達の意思で、貴方達に付いて行くことにしたの』
「あの時はどうしようかって思ったけど、いざ旅を一緒に出来るって思うと心強いね」
ソールは自分で言いながら、ふと旅を共にした騎士団を思い出す。
(みんな、無事だといいんだけれど……)
と、ソールが旅を共にした仲間に思いを馳せていると、
「さて、それじゃ行くぞ」
ヴァーノはソールの言葉を聞いてか聞かずか、咥え煙草の火を消して、先を促した。
(それにしても、不思議な巡り合わせだな)
ソールは、それまで敵対視していたヴァーノとウォルと行動をこれから共にするという事実に、今更ながらと感慨深く思った。
(ルナとウォルさんはともかくとして、コハルちゃんのことはこれからは僕達が守らないと)
と、同時に保護対象となったコハルのことを思いながら、その歩を進めるのだった。
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