第90話 守る者

「コハルちゃん、準備はもう大丈夫?」


 ルナがコハルに問いかける。


「うん、もう大丈夫」


 コハルはこれまで見せたことの無い、屈託の無い笑顔で答えた。


「……」


 ソールはそんな少女を見て、


(この子は、あの場に居合わせていたのにこんなに、前よりも元気に振舞ってる……。きっと、ショックは大きかったはずなのに……)


 と、コハルの心情を汲み取ろうとしていた。


「ソール……?」


 その横で、ルナは少年の瞳の中に悩みの色があると悟った。


「……私は、これから強くなればいいんだって思うよ」


 歩みながら、少女は続ける。


「コハルちゃんを助ける事は結果的にも出来たんだし、ソールはやれるだけの事をやった、そうでしょ?」


「……」


 そこまで言われて、ソールは口をつぐんだ。


「私は……ううん、コハルはお兄ちゃんが助けてくれた時、凄く嬉しかったよ」


 コハルはソールの悲し気な瞳を見て言った。


「お兄ちゃんは、ルナが言った通り全力であの人達に立ち向かってくれた。結末はあんなだったけど、それでも、お兄ちゃんがした事は正しかったんだって、コハルは思うよ」


「……うん、ありがとう。コハルちゃん」


 ソールはその言葉に、小さく頷いた。


「……所で、本当に僕達に付いて来るの?」


 少年は今度は真っ直ぐにコハルの顔を窺う。するとその少女の眼は決意の色に満ちていた。


「もちろん。昨日だって言ったでしょ?コハルを連れて行ってって。それなのに今更訊くだなんて、もしかして約束を破るつもり?」


「いや、そういう訳じゃないけど」


 少女の言葉に少年は言い淀んだ。


「ただ、昨日の事で分かったと思うけど、僕達の旅は『魔導』が切っても切れない関係にあると思うんだ。それはきっとこれからこの先も変わらない。だから、とても危険な事が付き物なんだ。それでも、付いて来る気は変わらないのかな?」


 ソールはコハルの背に合わせてしゃがみ、目と目を合わせながら問いかける。


「……うん、変わらないよ。だって、お兄ちゃん達が守ってくれる。それにコハルも力になれる。そうでしょ?」


 そんな言葉を笑顔で言われ、少年は彼の日の恩人の言葉を思い出す。






『人は決して一人では生きることは出来ないわ。だから、貴方も誰かと支え合って生きていくの。それが誰かはまだ分からないと思うけれど、きっといつか、貴方の前に現れる事を切に願っているわ』






(そうか……僕はきっと……)


 少年は傍らに居る二人の少女に視線を向ける。二人とも少年に笑顔を振りまいてくれている。


(欲しかったもの、見つかったよ)

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