第89話 葛藤の夜明け

 翌朝、ソールとルナは、それぞれの宿泊していた部屋から荷物を持ち、出て行った。


「……」


 ソールは未だに、昨晩の事を気に掛けていた。






『ヴァーノさん、どうして、殺したんですか』


 ソールは尋ねるというよりは詰め寄る形で言った。


『お前は、あのまま自分が殺されていたとして、それで良いと思っているのか?』


 逆に、質問で返される。


『そういう訳では……』


『なら文句を言われる筋合いは無い。俺が殺らなかったら、お前はあの男に、いやそれよりもあの女に殺られていただろう。お前は、俺達が居合わせなかったら既にこの世に居ないんだ。感謝はされても、糾弾されるのはお門違いだ』


 ヴァーノは辟易とした表情で言った。


『ヴァーノ、それは言い過ぎ』


 と、横からウォルがヴァーノに注意する。


『……』


 ヴァーノは煙草を再び口に咥える。


『ごめんなさい。大丈夫、だった?』


 ウォルはヴァーノの代わりにソール達に頭を下げた。


『……はい、ありがとうございます』


 ソールはウォルに感謝を述べた。しかし、その顔は曇っていた。自らが望んでいなかった結末に、少年は胸を痛め、唇を噛み締めた。


『所で、お前達はこれからどうするんだ?特に……』


 と、ヴァーノはソール達に問いかけながら、コハルに視線を向けた。


『……決まってるじゃない』


 ソールの代わりに、ルナが決意の篭った表情で言った。






「それにしても、この町でも色んな事があったわね」


 ルナは晴れた空を見上げながら思いを馳せ、言った。


「そうだね」


 一方のソールは、何処か浮かない顔で返した。ルナがそれに気付いて足を止める。


「どうしたの、そんな暗い顔して……。もしかして、また何か思い詰めてんの?」


 横から少女が少年の顔を覗く。


「うん……。本当に、これで良かったのかなって思って」


(僕は、あの子を……コハルちゃんを救いたかった。そして、コハルちゃんを攫ったあの人達を許せない気持ちは確かにあったはずだ。……それなのに)


 ソールは葛藤していた。本来であれば憎むべきはずの男女を傷付けてしまった事、目の前でみすみす命が奪われるのを見ていた事に対し、負い目を感じていたのだ。


「……考えたって、きっと答えは分かんないよ」


 ルナは再び歩みを進めて、


「きっと、私達じゃ、私達だけじゃどうにもならなかった事だった。ただそれだけの事よ。別にソールが一人で抱え込むような事じゃない」


 それは、少年を元気付ける言葉というよりも自分達の無力さを再確認するような言葉だった。


「でも……それでも僕は、あの人達も見捨てちゃいけなかったんだと思う」


 ソールはルナの言葉に、自分なりの精一杯の気持ちを言葉に変えて返した。


「……あ、見えたよ」


 ルナはソールのその言葉には何も言及しなかった。その代わりに、見つけたものを指し示す。


「あ、ルナ、お兄ちゃん!」


 それは、コハルという少女だった。

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