第87話 引きずり込まれて
少女は恐怖のあまり動くことも出来ず、思わず目を瞑った。
「……?」
しかし、いつまで経っても刃の痛みはやって来ない。不思議に思い、恐る恐る少女達は眼をゆっくりと開いた。
「……っ!」
そこには、鉈の一振りを片手で、正確には光を宿した懐中時計で受け止めているソールが居たのだった。
「ソール!!」
「お兄ちゃん!!」
「二人とも、遅れてごめんっ!」
息を切らしながらもソールは二人を気遣った。
「何とか間に合って良かったよ」
「何だいアンタ、その子と同じタチかい?」
女はその手に持つ鉈を自身の方へと引き直し、再度振り翳そうとする。
「させないよ」
その瞬間、ソールはその手に携えた懐中時計を前へと翳した。すると時計はより一層眩い光を放ち、少年の目の前には魔導陣が浮かび上がった。
「何だいそりゃあ!?」
初めて魔導を見る女は眼前で起こった事象にその眼を大きく見開いて驚き、大きな隙が生まれた。ソールはその隙を見逃さず、女の懐へと飛び込む。
(相手はこれまで出会った人の中でも『魔導』においては素人だ。それなら)
ソールは時計を持った手を強く握り締めた。
(ほんの少しだけど、『魔導』の時計を持ってる僕が有利になるはずだ!)
隔てる物が何も無いまま、ソールは女の腹部に渾身の一撃を放った。その光を纏った拳は女の身体を真っ直ぐに貫き、思いっきり前方へと吹き飛ばした。
「ぐおあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
勢いよく飛ばされた女はその手から鉈を手放し、後方へと飛んで行く。すると橋の上でその身体が跳ね、川の中へと落ちていった。
「……!まずいっ」
と、ソールは思考する前に走り出し、女が落ちた川の中へと迷いなく飛び込んでいった。
「ソール!?」
「お兄ちゃん!?」
少女達の驚きの声も聞かず、ソールは潜って女の行方を捜す。
(どこだ、何処に行った?)
少年は水中で辺りを見渡す。すると、
「!?」
後ろから、何かが少年の首を絞めていた。それは水底に落ちていった筈の女の両腕だった。
(僕を水の中で絞め殺すつもりか!?)
ソールは絡み付かれた腕を必死に振り解こうとするが、しかしながら少年の力ではそもそも年上の女の力には勝てず、無駄に体力を消耗するだけであった。
(くそっ、どうすれば……)
少年が意識が薄れていくのを感じたその時、
水上から、ゴゴゴゴゴ、と大きな音がした。
(何だ……?)
少年が疑問に思った次の瞬間、少年と女の周囲の水は渦を巻いて、勢いよく真上に放出された。
「!?」
何が起こったのか分からないまま、少年と女は再び地上へと戻されたのだった。
「げほっ、ごほっ、ごほぁっ」
どうにか助かった少年は嗚咽を交えながら空気を必死に供給しようとする。その前に、人影が立っていた。少年は顔を上げて見ると、その正体は女魔導士、ウォルだった。
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