第86話 現れる追跡者

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ソールは男の家から出て、ルナ達を探していた。


「頼む、間に合ってくれ……」


 少年は胸の内に、何か嫌な予感を感じていた。


(ルナのヤツ、逃げ場のない行き止まりなんかに隠れてなきゃいいんだけど……)


 男に蹴られた腹を片手で押さえながら、少年は汗を額に垂らして走って行く。






「……ここまで来れば大丈夫かしらね」


 ルナはキォーツの町外れの家の陰に息を潜めていた。


「……ありがとう。もう、大丈夫だから」


 そう言ってコハルはルナの背中から降りた。コハルが空を見上げると、もう夕暮れを過ぎて薄っすらと星が見え始める頃になっていた。


「これからどうするつもり?」


 コハルがルナに尋ねる。


「……取り敢えず、ソールとどうにかして合流しないと」


(正直私だけじゃ、この子を守る方法を考えるのにも限度がある。ソールだったら、きっと)


 ルナがそう考えていた時だった。


「あのお兄ちゃんって、そんなに頼りになるの?」


 再び、ルナに訊いてきた。


「……頼りになるよ。私ね、昔アナタみたいに周りからいじめられてた頃があったんだ。でも、そんな時に助けてくれたのがソールだったの。それから仲良くなって、今日までずっと一緒だった。……突拍子もないような無茶をすることもあるけれど、ソールはいつも考えて危険から私を守ってくれた。だからきっと今だって、私達のことを探してくれてるはずなんだ」


 そう語るルナの口元には、事態の深刻さを思わせない笑みが浮かんでいた。


「……」


 そんなルナを、コハルは羨望の視線で見つめていた。


「きっと、コハルちゃんにも出来るよ。そんな人が」


 それを察してか、ルナは優しい声でコハルに言った。


 その時だった。






「ダメじゃないの、こんな時間にこんな所で可愛い女の子が二人で居ちゃあ」


 と、笑いを含んだ声が少女達の耳をくすぐった。


「……!?」


 その声の主は、追っ手の眼鏡の男……ではなく若い女だった。


「何、アンタ?」


 ルナが警戒心を剥き出しにして尋ねる。その後ろに、コハルはルナの裾を握る形で隠れた。


「あの人ったら子どもだからって油断して。駄目ねホント」


 呆れたような声で女は吐き捨てる。


(そう言えば、あの家……。アイツが一人暮らしだと思ってたけど、確か机に対して椅子が二つあった。つまり、この女は……)


「アンタ、あの男の奥さんってこと?」


 ルナがそう尋ねると、


「ピンポーン、せいかーい。お嬢ちゃんったら頭が良いこと」


 ケラケラと笑いながら女は答えた。


「でも残念ねぇ。そんなオツムの良いお嬢ちゃんはここでおしまい☆そっちのお嬢ちゃんを置いて、ここで果てるんだから」


 そう言って女は、自身の後ろから何かを取り出した。


「!?」


 ルナとコハルはそれを見て恐怖した。それは刃渡り三十センチほどのなただった。


「さようなら、お嬢ちゃん!!」


 女が振りかざして少女達に襲い掛かった。次の瞬間……

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