第83話 行き着いた場所は

「はい、どちら様で?」


 そう言って出てきた眼鏡の男に、ソールは見覚えがあった。この町に来て初めて怪奇現象の騒ぎを聞きつけた夜に宿屋の前で会った男だった。


「どうも、こんにちは」


「あれ、君は確か……」


 そう言う男の方も、ソールの事を覚えているようだった。


「どうも、こんな時間にすみません」


 礼儀として、ソールは男に挨拶を交わす。


「何の用だい?」


 男はきょとんとした表情を示した。


「……ここにこれくらいの子が来ませんでしたか?」


 そんな男の反応を見て見ぬふりして、ルナは少女の背を手で表して問う。


「さぁ……来てないけど」


 男はそう言うと首を傾げる動作をした。


「そうですか……」


 男の答えに、ルナはガッカリする素振りを見せた。


「仕方ない、他の所かもしれないからまた探そうよ」


「……うん、そうね」


 ソールの言葉に、ルナは頷く。


「どうも、すみませんでした」


「いやいや、大丈夫だよ。その女の子、見つかるといいね」


 そう言って男がドアを閉めようとした時、






 ソールは足を間に入れて閉じないように阻んだ。


「なっ、何を!?」


 突然のことで、男の声が裏返る。


「どうして、僕達が探してるのが女の子だって知ってるんですか?」


 そう言うソールの眼光は鋭く、目の前の男を捕捉する。


「な、何を言って」


「ルナはさっき、『女の子』だなんて一言も言っていませんよ。なのに貴方は、僕達が女の子を探しているのを言い当てた。これはどういうことです?」


 言葉を遮って詰問するソールに対し、男は汗を垂らした。相手が子どもとは言え、その纏う重圧に男は怯え始めた。


「ちょっと失礼します」


 そう言ってソールとルナは無理矢理男の家に入って行った。すると、何やら怪しい正方形の木製の板が床に張り付いていた。


「そこかっ!」


 ソールは勢いよく板を外した。すると、地下へと続く石階段が現れた。


「これは……!」


 ソールの中の疑惑が確信へと変わった瞬間だった。普通の家であれば、このような隠し階段は存在しない。まして、その存在を隠さなければならない理由が此処にはあるのだ。


「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 と、男がソールに向かって飛び掛かる。


「……!?」


 ソールは咄嗟に身を屈め、それを躱した。奇襲に失敗した男は自らの家のテーブルに身体をぶつける。


「ぐおっ……!」


「今の内だよ、ルナ!!」


 男が痛みに悶絶している内にと、ソールはルナの手を取り、隠し階段を下って行く。


「この先に多分……」


 薄暗い通路を下って行くと、先程の部屋と同じくらいの広さの地下室がソール達の前に姿を現した。


「ここは……?」


 困惑するルナだったが、その一方でソールは不思議なくらいに落ち着いていた。しかし、目に入った光景が少年の心をくすぐる。


「……コハルちゃん!?」


 少年少女の瞳には、鎖とかせで壁に繋がれたコハルが、ぐったりとした体勢で居るのが映ったのだった。

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