第79話 誰も居ない部屋

 翌日、ソールとルナは滞りなく朝食も摂り終え、三度みたびコハルの家に向かおうとしていた。


「……?」


 すると道中、ソールが何かに気付く。


(何だ?今日はやけに人通りが少ない気がするけど……)


 些細な疑問を抱きながらも、その歩を進めていく。そして、コハルの家に到着した。


「じゃあ、行こっか」


 コンコンコンと、慣れた流れでルナがドアをノックする。


「……」


 しかし、中から少女の返事は返って来なかった。


「あれ、おかしいな?コハルちゃーん?」


 再度ルナがドアを叩く。少女の返答は再び来ない。


(何か、嫌な予感がする……)


 ソールはそう感じ、ドアノブを手に取る。すると鍵は閉まっておらず、簡単にドアが開いた。


「……」


 いとも容易たやすく開いてしまった扉に、ソールの心には焦燥が駆り立てる。


「鍵、開いてるの?」


 ルナが不安気に尋ねる。ソールはその問いにコクリと静かに頷いた。


「……入るよ」


 本来であれば中に居るであろう家主へと声を掛けつつ、ソールとルナはその中へとゆっくり入って行った。ギギギと軋む扉の音が不気味な静寂の中で響き、余計に二人の不安感を煽る。


「コハル、ちゃん……?」


 ルナが少女の名を呼ぶが、その甲斐も虚しく、中には誰の姿も見えなかった。


「出掛けているの、かな?」


 ルナが不安げにソールに訊く。対するソールは家の中を冷静に見回して、現状の把握を試みる。


「……もしかしたら、何かに巻き込まれたのかも」


「えっ?」


 少年の言葉に、ルナは鼓動を早める。


「何で、そんな」


「窓を見て」


 そう言われて、ルナは部屋の窓に視線を向ける。その窓は昨日の件で割れたはずだったが、何も無かったかのように修復されていた。


「コハルちゃんが直したのかな?」


「多分そうだけど、問題はそこじゃないよ」


 そう言ってソールは窓の方へと近づいた。


「このカーテン……普通は閉じてるはずなんだよ。昨日だって、コハルちゃんは部屋に居る間は閉じていた。それなのに、今はカーテンは開いている。しかも乱雑にね。こんなに部屋を綺麗にしているコハルちゃんなら、こんな乱暴な開け方はしないはずだよ」


 その言葉に、ルナは息を飲む。


「じゃあ、やっぱり……」


「うん」


 ソールは自分の推測を確信へと段階を進める。


「コハルちゃんの身に、何か起きたのは事実みたいだ」


 ソールは部屋の扉の方へと踵を返すと、


「とにかく、外に探しに行こう」


 と、ルナと共に外へと出て行った。






 その時、コハルの家を陰から見つめる人影が一つ、町の中へと消えて行った。

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