第78話 雪解けの心
ウォルはコハルの看病が終わると、早々に立ち去ってしまった。後に残されたソールとルナは、コハルが目を覚ますまでは待っていることにした。
「……うぅ」
「あ、目が覚めたみたい」
コハルはルナの膝の上に頭を乗せた状態で意識を取り戻した。
「あれ、私、何を……?」
横になった少女は何が何やら分からないといった様子でぼんやりとしていた。
「君は倒れていたんだよ、『マナ』……生命力の使い過ぎでね」
ソールは先程ウォルから聴いた話を基に、コハルに何が起きたのかを告げた。
「そっか……またなのね」
「『また』?」
「そう……。時々、くらくらして倒れそうになるの。……今日は本当に気を失ってたみたいだけど」
少女の口から発せられた事実に、ソールは恐れた。間違いなく魔導というものが彼女の身体を蝕んでいるという真実に直面し、少年はより一層確固たる決意を固める。
「コハルちゃん、聴いてほしい。僕は、僕達は、君にこれ以上辛い思いはして欲しくなんてない。まして、魔導には危険が伴うんだ。君だって薄々分かってるんだろう?だったら、もうこんなことは止めにして、普通の女の子に戻って欲しいんだよ」
誠心誠意の説得に、コハルは静かに俯いた。その胸の内に秘めるのは果たして葛藤か、それとも拒絶か、少年は窺い知れない。
やがて少女は口を開く。
「……分かった。もう、止めにする」
コハルはそう言ったのだった。
その日の夜、ソールとルナは再びソールの部屋で話をした。
「ねぇ、ソール。あのコハルちゃんの反応、どう思う?」
ルナがソールに問いかける。どうやら、彼女の中には何か思う所があるようだった。
「……本心だとは思う。あの瞳は、とても嘘を吐いているとは思えなかったから。でも……」
そう言ったソールだったが、何処か心に取っ掛かりがあることに嫌でも気付かされる。
(でも何だ、この何とも言えない感覚は……?何か、まだ何かあるような、そんな気がするのは)
少年の中で気のせいだと思いたい気持ちの一方で、得体の知れない焦燥が彼を駆り立てる。
「私は、信じたいよ。あの子のことを」
対して、ルナは先程まで不安げだった表情に反して、ソールに話した安堵からか、自信を持ったものへと変わっていた。
一方、コハルの家では、少女が一人、ぬいぐるみを抱き締めながら椅子に座っていた。
「……」
少女は、少年に言われたことを思い返していた。
『僕は、僕達は、君にこれ以上辛い思いはして欲しくなんてない』
「あんなこと言われたの、初めてだったな……」
その場に他人が居たならば、その表情は何処か赤らめたように見えただろう。少女の心には確かに少年の言葉が届いていた。少女のぬいぐるみを抱く腕の力が自然と強まる。
そんな時だった。
コンコンコンと、ドアを叩く音がした。
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