第74話 少年の決心

「それは出来ません」


 強く、しかし飽くまでも冷静に、少年は言った。


「……ほう、それは何故だ?」


 ヴァーノは特に激昂することもなく、寧ろその返しに興味深そうにソールに訊いた。


「もう僕達は、この件について深く関わる所まで来ています。昨日だって、ルナと一緒に向き合おうって話したばかりなんだ。それに、あの子を、これ以上苦しめたくなんてない。思い上がりだって言われたっていい。僕達が、あの子を助けたいんです!」


「……」


 ソールの言葉に、ヴァーノは静かに口から煙草を離した。


「……全く、お前の言った通りだったな」


 と、横のウォルに目をやりながら言った。


「……うん」


 ウォルはコクリと頷いた。その表情は何処か嬉しそうにソールには見えた。


「どういうことですか?」


 思わずソールが訊いた。


「コイツが、お前達であればそんな返答をするだろうと思ってたんだよ。まぁ、オレにとってはどんな反応を示そうが結論は変わらないがな」


「それって、やっぱりコハルちゃんに手を出そうってこと?」


 ヴァーノに対し、明確な敵意を見せながらルナが訊いた。


「あぁそうだ。……但し、お前達がそうしたいと言うのなら、三日間待ってやる。その間に、あの少女を説得して、これ以上町で騒ぎを起こさないようにさせるんだ。出来なければ、オレ達はあの子を『教会』管轄の施設に連れて行く」


 そこまで言うと、ヴァーノは再び口に煙草を咥え、


「それでいいな?」


 確認というよりも圧力をかけるような物言いで、ソール達を睨んだ。


(この眼、この人は本気だ……)


 ソールの額に汗が滴る。


「……分かった、それでいい」


 と、宣言したのはルナだった。


「要は、コハルちゃんを説得出来れば全部丸く収まるってことね。それなら、気合い入れて行くわよ、ソール!」


 勢い付くルナにソールは若干気圧されながらも、


(でも、ルナの言う通りかもしれない。結局、コハルちゃんを説得しないことには何も変わらないんだ)


「分かったよ、頑張ろう。ルナ」


 覚悟を決めた眼でルナに答えた。


「……ねぇ、ヴァーノ。やっぱりこの子達なら」


 小声でウォルがヴァーノに話し掛ける。


「いや、まだ決めつけるには早計だろう。暫く様子を見るぞ」


 と、ヴァーノも囁き声でウォルに答えた。


「だからこその三日間ってこと?」


「……さて、な。元々オレにはどっちでもいいことだ」


 ヴァーノは素っ気ない態度でそっぽを向いた。


(あれ、あの二人……何か話してる?)


 ソールが気になった所だったが、


「それじゃ、そういう訳だ。まぁ精々奮闘することだ」


 そう言い残し、二人組の魔導士は去って行った。

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