第72話 ヴァーノの忠告

 翌朝。ソールとルナは食堂で朝食を摂っていた。


(……何か、気まずいな)


 ソールは何処か居心地の悪さを感じていた。その朝、ルナと会った時も朝の挨拶は交わさずにここまで来ていたからだった。そんな思い空気の中、


「ねぇ、ソール。ちょっといい?」


 ルナの方から、ソールに話し掛けた。


「な、何?」


 ソールは自分でも分からないまま何故か緊張を身体に走らせる。その表情も何処か強張っていた。


「……昨日話をした後考えたんだけど、やっぱり、私だけじゃ、あの子を助けることが出来ないと思ったの」


 普段のルナからは想像も出来ない程弱弱しい態度で、ソールは少し驚いた。


「だから……力を貸して、ソール」


 改めて助力を求める彼女に、


(そんなの、決まってるじゃないか)


「分かったよ、ルナ。一緒にコハルちゃんを助けよう」






 ソールとルナが再びコハルの住む家に向かう所だった。


ようやく見つけたぞ。まさか、こんな町で油を売っているとはな」


 聞き覚えのある声が、ソール達の行く手を阻む。


「……またアンタ達なのね」


 ルナが嫌そうに声を出す。二人の前に現れたのは、魔導士ヴァーノとウォルだった。


「おいおい、そっちのお嬢さんは随分とオレ達のことを嫌ってるみたいだな」


 やれやれといった様子でヴァーノが口を開いた。


「当然でしょ、アンタ達と逢うとロクなことにならないんだから」


 そう言うルナの横で、ソールは複雑な感情を抱いていた。


(確かに初めて逢った時は襲われもしたし、ルナの言うことももっともだ。でも、僕達は一度二人に助けられてる。……この場合、二人はどうして接触して来たのかが問題になるけど)


 と、ソールが考えている時、


「そっちの坊主もそんな身構えるなよ。今日はお前達の為に来てやったんだ」


 ヴァーノが上から目線で言った。その隣でウォルはただ俯いている。


「……どういう意味?」


 ルナがいぶかしげに訊く。


「言葉の通りだよ。お前達が今関わろうとしているモンがあるだろ?……悪いことは言わない。その件からは手を引け」


 ヴァーノから発せられた唐突な警告に、ソールとルナは眉を顰めた。


「……それは、どういうこと何ですか?」


 今度はソールがヴァーノに訊いた。


「何だ、次はお前が問うか……まぁいいだろう」


 ヴァーノは懐から煙草を取り出し、魔導陣が描かれた右手の指先から火を生み出し、煙草に着ける。


「お前達が気付いているかどうかは知らないが、答え合わせという意味でも言っておくとしようか。彼女……コハルがこの町で起こしている数々の騒動、それにはお前達が知っている『ある力』が利用されている。ここまで言えば分かるだろうが……」


 ヴァーノは口に煙草を咥え、続ける。


「あの少女が行使しているのは、紛れもない『魔導』だよ」

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