第69話 真夜中の邂逅
その夜、ソールは寝付かずに外に出ていた。
「僕の予感が正しければ……きっと」
と、ソールが昨晩少女を見かけた道に着いた時だった。
「……やっぱり、ここに来てたんだね」
人影を目撃したソールは、そちらの方に声を掛ける。
「今日もこっちだと思ってたんだ。……昼間、広場で待つって言ったのは嘘」
その口調は、まるで昔から付き合いのある、親しんだ間柄で使うような砕けた話し方だった。
「ここに来るんじゃないかって思って、わざと口に出したんだ」
月明りが差し込み、人影の顔が見える。
「ルナ」
月の光が、ルナの顔を照らす。その明るさに反して、ルナの顔は曇りを見せていた。
「……どうして、私が来るって分かったの?」
「簡単だよ。僕は昨日の夜、ルナの顔を見ていない。それは寝ていたんじゃなくて、もう部屋に居なかったからなんじゃないかって思ったんだ」
ソールは月に目をやりながら続ける。
「それに昼間の広場でのルナの表情……あれは何かを隠している顔だった。だから、もしかして関係してるんじゃないかって思ったんだ」
「……やっぱり凄いね、アンタは。流石長年一緒に居るだけのことはあるよ」
そう言ってルナは肩をすくめた。
「ルナ……一体、何を隠しているの?」
黄昏る少女の横顔を見て、ソールはそれを訊かずにはいられなかった。
「……こっちに来て」
と、ルナはソールを手招きする。ソールは少し考えたが、ルナを信じて後を追うことにした。
「……ここよ」
ソールがルナに案内されて辿り着いたのは、木で造られた小さな家だった。コンコンコンとドアをノックしたルナは、
「誰?」
「私、ルナよ。入るわね」
と、内から聞こえてきた声に答えて中に入る。ソールもルナにつられて家の中へと入って行った。すると、中には縫いぐるみを抱え椅子に座った小さな少女が一人居るだけだった。
「……君は」
ソールが声を出したその時、
「……!誰、その人」
と、少女は熊の縫いぐるみを抱き締める力を強めた。
「大丈夫よ、コハルちゃん。コイツは私の友達のソール。だから、貴方を傷つけたりなんかしないから」
ルナが優しく諭すと、コハルと呼ばれた少女は警戒心が薄れたのか徐々に入れた力を緩めていった。コハルの長い黒髪が、部屋の明かりに照らされ艶やかに光る。ソールは思わず、その光景に見惚れていた。
「……ルナの、友達?」
「え、あ、うん。そうだよ」
コハルと呼ばれた少女の声で我に返り、ソールは返事をする。
「僕はソール。ルナとは昔からの付き合いでね、一緒に旅をしてるんだ」
コハルを安心させようと、ソールは笑顔を作った。その笑顔をじっと見つめたコハルは、
「……私は、コハル。よろしく」
と、ソールに手を差し伸べた。ソールはその手を取り、握手を交わしたのだった。
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