第68話 独りの少女

(なっ……!?)


 思わずソールは声が出そうになるのを必死にこらえ、建物の陰に隠れる。


(どういうことだ……?あの子が、火の玉を生み出している犯人ってこと?)


 胸の内に浮かび続ける疑問を思考の中に置きながらも、ソールはじっと少女の挙動を見ていた。火の玉を生み出すと、少女は指を細かく動かした。すると火の玉はそれに連動するかのようにゆらゆらと右へ左へ揺れながら町の中を動いて行った。


(……間違いない。あの子は火の玉を操っている。……でもどうして?そんなことをしてあの子は何がしたいんだろう?)


 ソールの中で謎は深まるばかりだったが、対する少女は彼に気付く様子も無く町の中を我が物顔で歩いていた。


「……」


 少女は立ち止まると、再び火の玉を自分の横に携え、家々の様子を隠れて見て回った。そして、人がいると分かった家の近くに火の玉を放った。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 女の叫び声が聞こえると、少女は素早くその場から立ち去って行った。


「……」


 その一連の様子をじっと見ていたソールは、ふとあることを感じていた。


(もしかして、あの子……)






 翌朝、ソールとルナは宿の食堂で朝食を摂っていた。


「……」


「ソール、また何か考えてるの?」


 食事中に上の空だったソールに、ルナが声を掛ける。


「えっ、あ、うん……。あの子のことをちょっとね」


「あの子って……昨日広場で一人で遊んでた子のこと?」


 ルナが思い出しながら言う。


「うん。実は昨日の夜、あの子を見たんだ。……結果から言うと、例の火の玉を操ってたのはあの子だったよ」


「えぇっ!?」


 ソールの話を聞いたルナは飛び上がって驚いた。


「ちょ、ちょっと!何でそんな大事な時に私を呼ばなかったの!?」


「……いやだってルナ、昨日起こしに行ったのに爆睡してたじゃないか」


「え?」


 少年の呆れるような視線から繰り出された言葉に、少女は目を丸くした。


「そ、それはそのー……ほら、乙女にも休息は必要じゃない?だからぐっすり眠るのは良いことなのよ」


「『乙女』、ねぇ……」


 ルナの言葉に、ソールのじっと冷たい視線が突き刺さる。


「そんなことより、気になるんでしょ?あの子のこと。だったら、またあの広場に行ってみよ」


 と、バツが悪そうに朝食を早めにたいらげるルナであった。






 朝食を無事に摂り終えたソールとルナは、昨夕の広場へとやって来た。


「……あの子、居ないね」


 しかし、目当ての少女は何処にも見られなかった。


「まぁ、いつもここで遊んでいる訳じゃないんじゃない?」


 ルナがソールの顔を覗き込んで言った。


「……それか、昨日みたいに夜になったら会えるかも」


 と呟くソールに、


「えぇっ!?まさか、夜にまた来て張り込むつもり!?」


 ルナは驚きの色を示した。


「やってみる価値はあるよ」


 真顔で言うソールに、ルナは


「でも、あの子が本当に関係している確かな証拠はあるの?」


 と、ソールの言動に疑問を抱いているようだった。


「さっきも言ったけど、昨日、確かに見たんだ。あの子が火の玉を操っているのを」


「でも、見間違いじゃないの?」


 自分の言い分を疑うルナに対し、


「……ルナ、何かあった?」


 ソールは違和感を覚えた。


「な、何が?」


「だって、こんなにも乗り気じゃないのはルナらしくないなって思ってさ」


「……別に、何でもないわよ」


 と、何かを誤魔化ごまかそうとする素振りのルナが、ソールにはどうしても何かを隠していると思わずにはいられなかった。

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