第4章:キォーツの町
第63話 キォーツの町
ソールとルナの二人は、キォーツの町へと辿り着いた。その町は家々が木材で作られ、石畳が道に敷かれている、何処か田舎町のような落ち着きを彷彿とさせる静かな町だった。
「何だか、落ち着いた町だね……」
「……えぇ、そうね」
イーユの町を通って気た二人はそれに比べて心地よい静けさに触れ、先程まで慌てていたことも忘れるような勢いで町の雰囲気に酔いしれていた。
「……ケビンさん達、大丈夫かな?」
我に返ったソールは、後ろを振り返り助けられた者達に思いを馳せる。
(でも、いつまでもこんなんじゃ、ケビンさんが僕らを送った意味が無い……前に、進まなきゃいけないんだ)
「ソール……」
そんなソールを思ってか、ルナは自身の両手を握った。そんな時だった。
「おやお前さんら、見かけ無い顔だね。こんな所に何の用だい?」
と、声を掛けられた。その声の方に振り向くと、そこには一人の老婆が立っていた。
「僕達は」
「私達、旅をしてるんです。それでこの町に立ち寄って」
と、ソールの言葉を遮るかのようにルナが横から答えた
「アンタはさっきの事もあるんだから、余り無理しなくていいよ」
ルナは耳元でソールに囁いた。
「おぉ、そうかい。それなら向こうの方に宿があるでな。良かったら行ってみなさいな」
老婆は優しく案内をする。
「はい、ありがとうございます!」
「……にしても、こんな時に来ちまってなぁ」
「……え?」
「いやいや、何でもないでな。ゆっくりしていきなさいな」
小声で不穏な言葉を残し、老婆は歩き去ってしまった。
「何なんだろう……?」
ソールはその言葉に、何か嫌な予感を感じ取っていた。
「……ここみたいね」
二人は老婆に勧められた宿らしき建物まで歩いてきた。外観はさほど他の建物と変わらず木造で、宿屋の看板が他の建物との差異を象徴しているだけだった。それはまるで同じ造りの家を並べることによる景観の保護を目的としたもののように感じさせた。
「到着はしたけど、宿代はどうすんのよ?」
ルナがソールをじっと見つめて問いかける。
「うーん……」
少し悩んだソールだったが、
「そう言えば、ケビンさんから投げ渡された袋、確か『報酬』って言ってたような……?」
思い出し、ソールは小袋を取り出し、掌にその中身を出す。すると、中からは金貨が六枚出てきたのだった。
「えっ、これって!?」
少年は思わず大声を上げて驚いた。ジーフの街で普段使っていた金銭は、その価値五十分の一の銅貨だけだった。銅貨は十枚で銀貨と、そして銀貨は五枚で金貨と取引されるが、ソールは生まれ育って銀貨までしか見たことが無かったのだ。ソールの声に反応し、ルナもそれを見ることになる。
「こ、こんなに貰ってたの!?……騎士団って結構太っ腹ね……」
一つの町を救った功績として渡されたとは言え、それらは少年少女には価値があり過ぎる代物だった。
「……でも、お陰で宿代は払えそうだね」
「そうね、行きましょ」
と、ソールとルナは宿の中へと入っていくのだった。
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