第64話 真夜中に蠢く火

 宿泊場所を確保することが出来たソールとルナは、空き部屋の余裕があったため二人別々の部屋を取ることにした。少年と少女とは言え、互いに意識することは様々ある。それに加え、ルナはソールが精神的に相当の疲れを擁していると判断し、促したためでもあった。二人とも疲れが溜まっていたのか、部屋のベッドに横になって数分でぐっすりと眠りに落ちてしまった。


 時は過ぎ真夜中になった頃。外から妙に眩しい明かりが差し込んでソールは目を覚ました。


「……何、一体?」


 怪訝な顔をするソール。すると外からカンカンカン、と甲高い鐘の音が聞こえた。


「また出たぞー!」


 と、直後に男の大きな声がする。只事ではないと思ったソールは、様子を見ようと宿の外に出る。


「何かあったんですか?」


 近くにいた男に声を掛ける。


「また出たんだよ、火の玉がな」


 と、男はうんざりした声色で返答する。


「火の、玉……?」


 聞き慣れない言葉に疑問を浮かべるソール。


「あぁ、全くこれで何回目だか分かったもんじゃない……。ここ二週間ずっと立て続けに現れて、町の連中を脅かすんだ。何処からともなく現れるもんだから、何とも不気味な光だよ」


 腕組みをしながら男は眉をひそめて言った。その様子にソールは不思議に思い尋ねる。


「ここに来た時は静かな雰囲気だったのに……そんなことが起こるからこんな真夜中になって騒がしくなるんですね」


「何だ君、この町の人間じゃないのか。なら知らなくても無理は無いが、この町はあの火の玉が現れるまでは夜だって静かなもんだったさ。でも、あれが出てからは色んな怪奇現象が立て続けに起きて落ち着きなんてありゃしない。町の奴らはもううんざりしてるんだよ」


「そうだったんですか……」


(それにしても、どうして急にそんな怪奇現象が起きるようになったんだろう……?)


 男の話を聴き、ソールは興味を示していた。すると、


「おい、こっちに来るぞ!」


 少し離れた所にいた別の男が、こちらに向けて言ってきた。まるで彷徨うようにして町を飛び交っていた火の玉が、ソール達の居る宿の近くまで通って来た。


「あれが、火の玉……」


 ソールはその眼で火の玉を目撃した。その火球は青白く鈍い光を発しながら不気味にゆらゆらと揺らめいていた。


(まるで、この世を彷徨う亡霊みたいだ……)


 その様子を見たソールは火の玉に恐怖心を覚えた。それと同時に町の人々が騒ぎ立てる理由も身に染みて理解した。


(でも、何だろうこの感覚は……?)


 ソールはその瞬間、恐怖とは異なる何かを揺らめく火球に感じ取っていた。そうこうしている内に火の玉はフッと虚空に消えてしまった。


「消えた……」


 それから暫くソールは外に居たが、再び火の玉が目の前に現れることは無かった。ソールが宿の中に戻ろうとしたその時、


「……?」


 物陰に、誰かが居たような気配をソールは感じた。急いでそちらに走って行ったが、そこには誰の影も見られなかった。

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