第62話 送り出された、その先

 ソールは眼を見開き、勢いよく右手を前方に伸ばした。すると、その掌から魔導陣が生み出され、強風が顕現する。


「なっ!?」


 走り迫って来るギルは躱す暇もなく、真正面から衝撃を受ける。


「……やった、の?」


 疑問に思ったソールだったが、


「……同じてつは踏まねぇぞ!」


 と、襲撃者の声がした。見ると、ギルは土で身体を地面に固定し、飛ばされないようにしていた。


「そんな……!?」


 自分の意思で現実に魔導を使ったという喜びも束の間、ソールは目の前の現実に打ちひしがれた。


「お前と違って、こっちは魔導士なんだぜ?これくらいの対策くらい、出来ない道理は無ぇ」


 術を解き、ギルはソールに向かい歩いて行く。


「さぁ、もう観念しな!」


 と、魔導陣を形成し、その手に土の槍を携えながらゆっくりと近づく。


「時計を渡せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 槍を振りかざし、ソールに当たる……その直前だった。






 キィィィィン、と甲高い音がした。


「……間に合ったみてぇだな」


 そう言って駆け付けたのは、騎士ケビンだった。


「ケビンさん、どうして!?」


「馬鹿野郎、俺を誰だと思ってんだよ、お前は」


 ケビンが割って入ったことで警戒したのか、ギルがそっと距離を置いた。


「言っただろ、俺はお前の兄貴分だ。俺にはお前を守る役目がある」


「フン、格好いいな、お前。だが……」


 ギルは再び虚空から複数の土人形を生み出した。


「この状況でいつまでその虚勢を張っていられるかな?」


 と、ギルは強気な姿勢を崩さない。


「気を付けてケビンさん。コイツ、僕の魔導も効かなかったんだ……。倒せなかったんだ……」


 徐々に声を小さくするソールにケビンは何かを感じ取ったのか、


「……いいかソール、よく聞け。お前は確かに力を持っているのかも知れねぇ。でも、それは絶対的なもんじゃねぇ。この世には強者という奴らが居て、弱ぇ奴は蹂躙じゅうりんされてる……そんなこともある」


 重苦しい空気が漂う中、ケビンは続ける。


「だからこそ、力におごる奴には絶対になるな。お前はその優しさを持って、お前らしく強くなればいい」


 そう言った時、ケビンはソールに向けて一つの小袋を投げた。ソールはそれを両手で受け止める。


「そいつはこの間の騒動の報奨金だと、団長からだ」


「グランさんが……?」


 そんなやり取りをしている間にも、土人形はケビンに襲い掛かる。立ち向かう勇猛なる騎士は、その一体一体を斬り倒していく。


「行けソール、ルナ!皆それを望んでる。俺達をはいにして、前に進め!」


「ケビンさん……」


 ぐっと受け取った袋を握り締め、ソールは一息置く。そして、


「……行こう、ルナ」


 少女の手を握り、引っ張る形で少年は走り出す。


「……それでいい」


 フッと口元を緩め、ケビンはその後ろ姿をそっと見送った。






「ソール……」


「……」


 走って行く中で、ルナはソールの胸中をその手で感じていた。どれだけ辛い思いで走り出したのかを。少年はずっと下を向いて走っていた。


「……ソール、あれ!」


「……!」


 ルナの声でソールは前を向いた。すると、そこには町があった。


 眼前に広がるそれは、キォーツという一つの町だった。

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