第61話 迫り来る魔の手
「ありゃぁ、確か……」
ギルが走り去って行く二人を自分の記憶から呼び起こす。
「こりゃ、つくづく運は俺に味方してるみてぇだな」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて外に出ようとするギル。それを制止する者が居た。
「おい待て、私を置いて何処へ行くというのだ!?」
と、カクイが激昂する。
「悪いが他に用が出来ちまった。それに、俺はアンタが力を持ってたから手を貸してやったんだ。今のアンタにその価値は無ぇ。俺が欲するのは唯一つ……純粋な力、それだけだ」
吐き捨てたギルは、走って行くソールとルナを追いかけるために荷馬車から飛び降りた。
「とんだ救いの手だったな」
残されたカクイに、キースは皮肉混じりに呟いた。
「……の……めが」
怒りに震えながらカクイが呟き、そして、
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!出来損ないの分際で私を下に見おってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!『教会』の犬めがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その叫びは渓谷の空まで轟いた。
「な、何だ!?」
遠くない場所から怒声が聞こえ、ソールは驚いて足を止めそうになった。
「ちょっとソール、何してんの!?早くこっち!」
その様子を見て、ルナが思いっきり手を引っ張る。
「ごめん、ちょっとビックリしちゃって……」
その声を聞き、ソールの胸にはある心配が募った。
(ケビンさん、大丈夫かな……?)
ソールがそんなことを考えていると、
「ようやく見つけたぞ、時計の坊主!」
声がした方を振り返ると、見覚えのある男が後を追いかけて来るのが眼に入った。
「くっ、またアイツなの!?」
ルナが嫌そうな声を漏らす。ソールもルナと同じ気持ちだった。
(夢まで出て来て、今度は現実でも追いかけて来るのか!?)
ソールは歯を食いしばりながら、ルナと共に走って行く。しかし、ギルは次第にその距離を縮めていく。
「くそっ、このままじゃ追い付かれる……!」
「さぁ、大人しく時計を渡しなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
大声で叫び迫ってくるギルに、ルナは恐怖心から手が震える。それが繋がれた手から伝わり、ソールは考える。
(いつも強気なルナだって、本当は怖いんだ……僕が勇気を出さなくてどうする!)
と、ソールはルナが握る手を放し、急に立ち止まる。
「ソール、何で止まるの!?」
「……ルナ、先に行ってて」
驚くルナに対し、ソールは落ち着き払った様子で言った。
「何言ってるの、殺されちゃうかもしれないのよ!?」
「分かってるよ。だからこそ、僕がここでアイツを食い止めるんだ」
ソールは懐中時計をポケットから取り出すと、強く握りしめて目を閉じて意識を集中させる。
(思い出せ、僕!あの夢を、あの時の感覚を……)
そうしている間にもギルはソールに着実に迫っていく。そして……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます