第60話 戦場からの脱出
「……凄い、大変なことになってる」
馬車の中から覗き込む形で外の様子を窺うソールは、その状況に戦慄した。
「私達に、出来ることってないのかな?」
ルナがソールに囁く。
(どうする?時計の力を使えば皆を助けられるかも知れない。でも、もしかしたら、皆を巻き込んでしまう可能性だってある……)
ソールがそう考えていると、ドン、と何かが馬車にぶつかる音がした。
「おい、ソール。居るか?」
と、少年を呼ぶ声が聞こえてきた。声の主は騎士ケビンだった。
「ケビンさん!?」
「待て、そのまましゃがんだまま聞け」
ケビンは立ち上がろうとするソールを制止し、続ける。
「居るならいい。……戦況は正直、押され気味だ。相手に地の利がある以上、俺達が後手に回っちまってる。ここらはもう混戦状態だ。だから……お前らは隙を見て逃げろ」
ケビンの思わぬ発言に、ソールは驚いた。
「そんな、ケビンさん達を置いていくなんて出来ないよ!」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだがな……今はそんな事言ってる場合でも無ぇんだ」
ケビンの口調から、普段の余裕が見られなくなっているのをソールは感じ取っていた。
「こんな状況になっちまったのは俺達騎士団の落ち度だ……。団長もそれを理解してる。だからこそ、お前達をこの場から遠ざけようと決断したんだ」
「僕達を……」
ソールはゴクリと唾を飲んだ。その状況で最善の選択肢が何なのかを理解していたからこそだった。
「分かったよ、ケビンさん」
「ちょっとソール!?」
ソールの返答に、ルナが戸惑う。しかし、ソールの表情を見ると静かに俯いた。
「決まりだな。俺が道を切り拓く。だから、お前達は走って西に行け!」
襲い掛かって来る土人形を
「さて、奪うとしますかねぇ」
土人形を駆使し、騎士団を翻弄するギルは、着実にカクイが乗っている荷馬車へと近づいて行った。そして、遂に荷馬車を覆う布を切り裂き。中に入る。
「ふむ、上出来じゃないか」
中に入ると、縛られているにも関わらず傲岸不遜な態度をとる顎鬚の男が出迎えた。それは何を隠そう、イーユの前領主カクイだった。
「おいアンタ、一体何者だ?」
隣に座る男……キースがギルに向けて問いかける。
「あん?俺はこのおっさんに雇われた魔導士さ。そう言うお前こそ一体誰だよ?」
(魔導士……だと!?)
その単語に、キースは異常なまでの反応を示した。その顔には汗が滴り落ちる程に動揺していた。
「そういう
と、カクイは縄を解くように促す。
「はいはい、分かってますって」
面倒臭そうに頭を掻きながらギルはカクイに近づこうとする。その時だった。
「走れ!!」
と、外から何やら大きな声を張り上げる者が居た。
「あん?」
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