第59話 強襲の魔導士

「俺様の名はギル。これでも一介の魔導士だ」


「魔導士、だと!?」


 その単語に、騎士達がザワザワと反応する。


「……その魔導士さんが何の用だ?」


 しかし飽くまでも冷静に、騎士団長グランは目の前の男に問いかける。


「お前らが運んでいる男……カクイに用があるんだよ。大人しくこっちに渡せ」


 そう言って魔導士ギルは、騎士団一行に向けて腕を伸ばした。


「ふざけんな!」


 そう勢いよく叫んだのは、先頭に立つケビンだった。


「誰がお前達みたいな賊に渡すか。こっちはアイツを護送中なんだよ。それにこちとら腐っても騎士の端くれだ。はいそうですかって渡せるかってんだ!」


 すると、ギルはクククと笑いを浮かべ、


「どうやら本当にその荷馬車に乗せてるらしいな」


 と言った。ギルはケビンのその言葉で確信を持ったのだ。


「くそ、どうやらはかられたようだな」


 グランが呟く。その最中でも場の緊張は張り詰めていく。


「さてと、確認も出来た所で早速渡してもらうとするか!」


 そう言った直後、ギルが取り巻きの七人と共に騎士団目掛けて走り出した。


「来るぞ、各自戦闘態勢に入れ!」


 グランの掛け声と共に、騎士達はソール達が乗っている馬車とカクイ達が乗っている馬車を背に囲むようにして、剣を抜いて体制を整える。


「ふん。騎士と言っても所詮は只の人の身に過ぎねぇ。俺達魔導士みてぇな魔導は扱えねぇ身体だ。数で押しちまえばどうってこたぁねぇ!」


「……」


 そう言いながらギルの手のジェスチャーに合わせて、ローブを被った襲撃者達は不気味に何も口にせずにそれぞれ配置された騎士達に向かって行く。


「くっ、甘く見るなっ!」


 そう言ってデュノが剣を一太刀振り回した。するとローブの影はゆらゆらと揺れ、それをかわす。


「この、ちょこまかと!」


 今度は狙いを定めて横薙ぎの一閃を浴びせる。すると相手のローブがはだけ、その姿が露わになった。


「なっ!?」


 その容姿を見たデュノをはじめとする騎士達は戦慄する。その正体は、土で出来た人形だったのだ。


「何だこれは、人形か!?」


「気付くのが遅ぇよ!」


 ローブの正体を看過されたギルは、手を翳した。すると虚空に幾何学模様の円が浮かび上がり、そこから更に彼の手駒が生み出されていく。


「成る程、魔導陣によって土の人形を生成している訳か」


 と、騎士団長グランがギルの動作を考察する。


「ほう、流石は団長さんと言った所か。だが分かった所で、コイツぁ止められねぇぞ!」


 そうこうしている内に、土人形の軍勢が出来上がり、騎士達に立ちはだかる。


「くそっ、どうすりゃいいんだよこれ!?」


 一体ずつ斬り倒していくケビンだが、次々と押し寄せる土人形に嫌気がさす。


「皆落ち着け!これは魔導によって生み出されている人形だ。それも素材は土……。生成には対価となる物質が必要になる。それを絶てば、奴はこいつらを作れなくなるはずだ!」


 と、騎士全体に聞こえる声でグランが叫ぶ。


「ほう、鋭いな。だが、そこが甘い」


(……?何だ、こいつの妙な余裕は……)


 ギルの様子に、グランは不思議がる。しかし次の瞬間、その理由を把握する。


(まさか……!)


「この周辺の土……まさかこれらを使っているのか!?」


「流石は団長さんだ、賢いねぇ」


 そう言うと、ギルは再び手をかざす。更なるしもべを生み出す為に。

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