第58話 騎士への奇襲

 それから二日程、ソールとルナは騎士団と共に旅を続けていた。二人は騎士たちとも何人かと交流をする程打ち解けていた。


「どうだ、ソール。疲れて無いか?」


 馬車の傍を歩くケビンが声を掛けた。


「ずっと座っているから少し腰が痛いくらい、かな」


 そう言ってソールは腰を擦る素振りを見せた。


「そうか、なら大丈夫だな」


「というより、僕達も歩いた方がいいんじゃ……」


 そうソールは言うが、


「バーカ。お前達は仮にも今は騎士団の護衛対象なんだぜ?そうそうキツイことはさせられないっての」


 ケビンが言った。すると、


「そんなこと言って、アンタ達を見てると護衛というより兄弟を見てるみたいよ」


 と、横からデュノが割って入った。


「おっ、そう見えるか?じゃあ俺が兄貴だなっ」


 デュノの言葉に、ケビンが胸を張る。


「いや、どちらかと言えばアンタの方が弟っぽいけどね」


「何だと!?」


 続けて紡がれた言葉に、ケビンは憤慨ふんがいする。


「コラ、止めないか二人共。年下の二人が居るんだ、恥ずかしくは無いのか?」


 制するグランの言葉に、喧嘩する二人はそっぽを向いた。


「全くお前達ときたら……相変わらずの仲だな」


「だって団長、コイツが俺を馬鹿にして来たんだぜ?そりゃ腹の一つや二つも立つだろうよ」


「腹は一つしか無いけれどね」


 と、再びケビンに向けてデュノが煽る。


「お前表出ろや!」


「もうここは外だよ」


「何だと、まだ言うかっ!」


「いい加減にしろ!」


 止まらない喧騒に、グランが大声を上げる。それを見て、ソールとルナはクスクスと笑いを堪えていたのだった。






 暫く一行が歩いて行くと、手入れが全くされていない凸凹道に差し掛かった。


「これはまた随分な道だな」


 周りは岩岩に囲まれ、草木は一本として見られない。そこは、何処を見ても薄茶色の岩肌が見える景色の中に、一本の大きな川が横切っている渓谷だった。


「こんな所で寝泊まりなんて到底出来なさそうだなぁ」


 周囲を見回しながらケビンが呟く。


「流石にここじゃ嫌だよね」


 ソールが同意する。それに対し、隣に座すルナも首を縦に振った。


「……」


「どうかしましたか、団長?」


 デュノが、様子のおかしいグランに問いかける。


「……どうやら、団欒だんらんの時間は終わりの様だ」


 その言葉を聞いてか、岩陰から突然黒いローブを被った人影がぞろぞろと、騎士団一行の前に現れた。


「……!?何だ、お前達は!?」


 一行の先頭に立っていたデュノやケビンが、警戒心を剥き出しにして腰の鞘に手を添える。


「探してたんだよ、あんたらの事をな」


 七人程の人影の合間から、一人の長らしき人物が割って入って来る。


「……!」


 その人物の顔を見るなり、ソールとルナは思わず声を上げそうになる。慌てて二人は、馬車の内側に隠れた。






 何故なら、突然現れた集団を率いていたのは、かつてジーフの街で襲撃してきた男、魔導士ギルその人だったからだ。

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