第57話 真夜中散歩
一夜の宴を終えた集団は後片付けを済ませると、それぞれのテントへと向かい、床に就くのだった。
「……」
そんな中、ソールは中々眠れずにいた。
「何だ、眠れないのか?」
と、一緒のテントに入っていた騎士ケビンが声を掛けた。
「はい、ちょっと考え事をしてて……」
「そっか……ま、その歳で旅に出るなんてそうそうないからな。お前も余程の気苦労を抱えてるんだろうな」
ケビンは頭の後ろに手を組み、テントの上部を見つめて言った。
「お前も、ってことは、ケビンさんも何か抱えてるんですか?」
ソールはその一点が気になって尋ねた。
「……別に俺だけじゃないさ。この騎士団に居る連中は、その大半が孤児だったんだ。身寄りの無い俺達を、王国側が引き取って立派な騎士に仕立て上げる……。それが王国騎士って所だ。そして、騎士としての栄誉を買われてた連中の中には、役人に起用される奴も少なくは無ぇ」
ケビンが昔を懐かしむような顔で語る。
「ま、中にはロジャーの爺さんみたいに現役引退の歳になりながらも志願してここに居る変わりもんもいるけどな。俺も他人の事は言えないが……」
すくっとケビンは起き上がり、
「なぁ、寝れないんだったら、ちょっと外で話さねぇか?」
と、ソールを夜の散歩に誘った。
テントから出たソールとケビンは、近くの林の中を歩いていた。
「どうだ、夜の林の中は?」
ケビンがソールに投げかける。
「……ちょっと暗くて怖い、です」
「はは、そうか」
笑いながら、ケビンは言った。その姿はただ笑っているだけでなく、明るく振る舞うことでソールを安心させるような仕草が見て取れた。
「でも、涼しくていいですね」
怖がりながらも、ソールは夜独特の涼しく澄んだ空気を堪能していた。
「そうだろ?俺はこの感じが好きでな、眠れない時はよくこうやって歩いてんだ」
夜風に吹かれながら、少年と男は夜道を歩いていく。
「色々と考えることがあるだろうが、自分を見失うなよ」
と、ケビンはソールに向けて言う。
「団長も言っていたけどよ、お前の傍にはお前のことを想っている大切な奴が居るはずだ。そいつの事を無下にしてやるなよ。お前は、お前のままでこの旅を成し遂げるんだ。そして……お前のまま、変わっていけばいいんだ」
「僕の、ままで……」
ソールは自分の腕の傷に手をやった。
「その傷、まだ痛むのか?」
その挙動にケビンが反応する。
「まだちょっと……。でも、それよりも」
「胸の傷の方が痛む、ってか」
ケビンがソールに代わって言葉を紡いだ。
「大切な人を危険な目に遭わせちまった……そのことが胸に突き刺さってどうしようもなくなる。俺にもあったんだ、昔な。でも、だからこそ、次こそはって思うんだ」
「ケビンさん……」
「さぁ、もうそろそろ戻ろうぜ」
そう言ってケビンとソールは、テントの床へと戻るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます