第56話 束の間の団欒
『微睡みの森』を抜け出た一行は、静かな丘を歩いていた。もうすっかり夜も更け、ソールとルナは眠気と格闘していた。ゆらゆらと馬車の揺れが二人を眠りへと誘おうとする。
「……」
コクり、とルナが首を下げる。
「ルナ、もしかして眠たいの?」
「……はっ。そう言うソールだって」
どちらも限界は近いようだった。
「グランさん、そろそろ休息といきませんか?」
その様子を察してか、近くの騎士の一人がグランに進言する。
「……そうだな、皆も疲れているようだし、ここらで休憩としよう」
グランは周りの様子を見て言った。
「よし皆。今日はここらで野営を張る。準備するように」
「「「はい!」」」
揃えるように、他の騎士達が呼応する。
静かな丘に簡易的なテントを張り、寝床を確保した騎士団は、次に夜食の準備に取り掛かる。ソールとルナも黙って見ているのは申し訳無さを感じ、手伝うことにした。それは野営というには楽し気なひと時だった。
「おい、ソールとやら。こっちを手伝ってくれぃ」
年老いた騎士ロジャーがソールを呼ぶ。
「貴方、ルナちゃんって言ったかしら?こっちに来てくれる?」
続いてルナが黒髪ロングの女騎士デュノに呼ばれる。
「なんか、いいね。こういうの」
「うん。私も何だか楽しくなってきちゃった」
ソールとルナは、久方振りの休息の時間を、準備段階においても満喫していたのだった。ソールは火起こしに、そしてルナは食材を切って料理の準備に取り掛かった。
「さて、こんなものだろう。そろそろ夕食といこうか」
夕食の準備も終え、グランの号令で集まった一行は、火を囲むようにして円形に並んで座った。
「よし、それじゃ食べるとするか」
そう言って手を叩くグランの動作を合図に、並べられた皿から次々と食べ物を手に取る騎士達。
「ほら、お前も遠慮せずにどんどん食べな」
近くにいる騎士に促され、ソールも近くの皿に盛られたチキンを手に取る。
「ルナちゃん、貴方も遠慮なく食べてね」
「は、はい。ありがとうございます」
ルナも隣に座るデュノに迫られながらサラダを食べ始める。
「あの、僕らも食べて本当に良いんですか?」
ソールが隣に座る茜髪の騎士ケビンに尋ねた。
「何を今更言ってんだよ。今は同じ旅路を行く仲間同士、遠慮なんざ要らねぇってもんだ。それに、お前さんはグラン団長にだって認められてるんだ。こいつぁスゲェことなんだぜ?もっと堂々としてくれたって構いはしねぇさ」
そう言われ、ソールは少し顔を赤くした。
「おっ、照れてやんの。可愛いとこあるじゃねぇか」
「ちょっと、からかわないで下さいよ」
はっはっはっ、と大笑いする騎士達と共に、ソールとルナは先程までの疲れなど忘れ、夜を楽しんだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます