第55話 霧は晴れて道は拓く
少年は大地へと舞い降りた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
力を行使した為か、息が上がるソール。全身に疲労の波がどっと押し寄せ、今にも倒れそうになるが必死に体のバランスを保とうとする。
「やった……のかな?」
辺りを見ても、先程まで居たはずのギルと土巨人の姿は何処にも無い。自分が撃退した事実に、少年はふっと
「おめでとう、お兄さん」
再び、少女の声が少年の頭に響いた……訳ではない。今度は明確に、何処からか少年に近い所から声がした。しかし、少年はついに力尽きその場に倒れこんだ。
「あの男はお兄さんのこれまでの経験から作り出された幻影……言わば、お兄さんの心の中の敵って所かしらね」
クスクスと少女の笑い声が聞こえる。
「ルイーナちゃん、君は一体……」
倒れながらも、ソールは何処かに居る少女に問いかける。
「貴方は内なる自分の弱さを見つめ、それを克服した。……中々面白かったわ」
ルイーナはそんなソールの疑問など構うことなく、率直に感じたことを口に出した。
「でも、まだまだ貴方は生まれ立て。これからどうなるのか、楽しみだわ」
倒れた少年の顔を覗き込むような姿勢で少年の目の前に現れる少女。しかし、ソールからはルイーナの表情はうかがい知れなかった。
「う、うぅ」
とうとう少年は疲労から来る眠気に、そっと目を閉じてしまう。そして……
「ソール、ソール!」
誰かの、彼の名を呼ぶ声がする。
「う、うぅ」
次第に意識がはっきりし、目を覚ますソール。
「ソール、やっと目を覚ました」
少年が意識を取り戻し、安心するルナ。
「ルイーナ……ちゃん?」
「え?」
思わぬ言葉に、ルナは眼を丸くした。
「あ、いや……ルナか」
ソールは自分の間違いを正した。どうにも、先程の少女とルナは何処か似通った所があった。
「ソール?」
自分の名を間違われ、流石に困惑を隠しきれない少女。
「いや、ごめん。何でもないよ」
(今のは、夢……だったのかな?)
少年はそう思っていた矢先、身体を起こそうと力を入れるが、上手く力が入らないことに気付く。
「くっ」
「ソール、何処か痛むの?」
「いや……大丈夫だよ。……おっと」
立ち上がろうとしたが、上手くバランスを保てず倒れそうになるのをルナに受け止められるソール。
(この疲れ……やっぱりさっきのは本当にあったこと、のような……?)
「本当に大丈夫なの!?やっぱり何処かケガでもしてるんじゃ?」
「いや、ホントに大丈夫。ただ、ちょっと疲れが出ただけだから」
ルナに余計な心配を掛けまいと少し強がるソール。それに対し何かを感じ取っているのか、
「そう、ならいいけど。……何かあったらすぐ言ってよね」
ソールに対し、ルナは釘を刺した。
「分かったよ……」
安堵してか、再び眼を
「ちょ、ちょっと寝ないでよ。……私だって、少し恥ずかしいんだから」
「あっ、ごめん」
気が付き、ソールはルナに支えられながら立ち上がる。
「ところで、皆は……?」
ソールが辺りを見回すと、騎士達が木陰で座り込んでいるのが見えた。
「何だかいつの間にか皆寝ちゃったみたいなの。ま、ソールが起きたのが最後なんだけど」
「……そっか」
ソールは少しの申し訳の無さがあり、俯いた。
「おぉ、気が付いたか」
と、グランが声を掛けてきた。
「霧が晴れてきた。もうすぐしたら出発するぞ」
(そう言えば、霧がもう殆ど無いや)
ソールが辺りを再び見回した。
(あの子は、やっぱり夢の中の存在だったのかな……)
と、少年は先程まで自分が話していた少女のことを考える。
「さて、出発するか」
そう言って、グラン率いる騎士団は出発する。すると、
「あれは……出口?」
歩き始めて少しすると、遠くの方で森の出口が光っているのが見え始めた。
「何だ、もうすぐそこまで来ていたのか」
一行は出口の明かりを見つけ、安心する。
「また、会いに来てね」
と、再びソールが少女ルイーナの声を聞く。
「今の……」
少年は思わず声のした方を見る。しかしそこには木があるだけで、他には何も見られなかった。
「……」
(ありがとう、ルイーナちゃん)
フッと笑みを浮かべながら、ソールは隣のルナと共に、再び馬車に揺られるのだった。
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