第53話 頭の中の声
「なっ!?」
(あの子は一体……いや、それよりも)
少年は振り返り、再び自分を襲撃して来た魔導士を見据える。
(今は、あいつが先決だ)
そう身構えた時だった。
「……!」
ギルは前方に手を伸ばす。そして、差し出された手から幾何学模様の円が浮かぶ。
(……来る!)
ソールの予感は的中した。円からは土砂が大量に雪崩込み、ソールに向かい放たれる。すんでの所でソールは横に飛び、回避した。
「くっ!?」
ソールは自分のポケットの中にある時計を手に取ろうとする。すると、
「貴方の望むのは、力?」
「!?」
彼の頭の中に直接響くように、声がこだまする。
「今のは……ルイーナ、ちゃん?」
ソールは声の主を看過する。しかし、周りを見回しても件の少女は見当たらない。
(でも、どうして)
「貴方の欲する力って、何なの?」
「っ、また!?」
ソールは頭に手を当てる。頭の中の声に気を取られそうになるが、事態は加速する。
「……!」
ギルは幾何学模様を地面に浮かべる。すると、その中から土の巨人がゆっくりと姿を現した。
「……あの時の土人形か!?」
顕現した直後、土の巨人は少年に向けて拳を振るう。少年はそれを後ろに跳んで回避する。
「……!?あぶな」
言う時間も無く、巨人は二度目の攻撃に移る。少年はそれも躱すも、抉れた地面の礫が少年に襲い掛かった。
(くそっ、どうする?あの時みたいに周りに障害物は無い。身を隠すことは出来ない。だったら、やっぱり)
少年はポケットからすっと懐中時計を取り出すと、自身の前に翳した。そして、時計に意識を集中させる。
(……思い出すんだ、あの時を。初めて力を使った、あの時を!)
しかし少年の意思と願いに反して、時計には何の変化も見られない。
「くっ、どうして!?」
少年の顔に焦りの色が出る。これまで少年は、自分の意思で懐中時計の力を行使しようと試みるも、何度も失敗をした。今回もそうだった。その為か、少年の心には不安の陰が差し込んだ。
(周りには頼れる物は何もない。助けてくれる人も居ない……。僕は、力を使うことも出来ない……)
眼前の巨人が拳を再び少年に向けて振るう。しかし少年はその瞬間、その場から動く思考を欠いていた。
(目の前の巨人を倒す術を、僕は持ってない……)
少年の目から光が消え始めたその時。
「貴方は、何の為に力を欲するの?」
再度、少女の声が頭を過ぎる。
(何の、ため……)
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