第52話 濃霧の夢
「ここは……?」
気が付くと、ソールは広い草原の上に立っていた。
「……」
少年は今までと全く別の場所にいるから驚いている訳では無い。その場所は、少年には思い出深い場所だったからこそ驚いていた。
「間違いない、『あの場所』だ……」
そこは、少年が彼の恩人と出会い、長い時間を共にした場所だった。
「でも、どうして此処に……」
少年は自分の頬をつねった。すると鈍い痛みが走った。
「夢、じゃないのか?」
ソールは周りを見回す。周りにはいつも傍に居る少女どころか、人の姿が何も見られなかった。
「みんな、さっきまで一緒だったはずなのに……」
(いや、それよりもこの状況……僕の意識ははっきりしてる。でも、現実味の無いこの場所に居るということ……何がどうなってるんだ?)
ソールがそう考えていると、
「お兄さん、どうかしたの?」
と、少女の呼び掛ける声が聞こえた。ソールが声のする方へ眼をやると、そこには小さな少女が一人、立っていたのだった。
(この子……何だろう?初めて見るのに何処か出会ったことがあるような、そんな感じがする)
ソールはその少女に何故か親近感を感じていた。
(いや、それにしてもこの子、一体何処から現れたんだ……?)
「えーっと、君は?」
「ワタシは、ルイーナ」
少女が答える。それに対し、
(ルイーナ……ルナに似た名前だ。それに背丈も、昔のルナそっくりだ)
「じゃあ、ルイーナちゃん。僕に何か用かな?」
ソールは自身の中に渦巻くあらゆる疑問を一旦押し込めて少女に問い掛けた。すると、
「お兄さん、貴方の望みは何?」
と、唐突過ぎる質問を返された。
「望み?」
「えぇ、貴方が望むものよ」
少年の疑問など構うことなく、少女は彼に問い掛ける。
(……何なんだろう、この子?凄く不思議な雰囲気がするような)
「君は一体……」
その時だった。
ズドン!という轟音と共に、彼らの周囲三メートル程の地面が抉れた。
「!?」
突然の衝撃に少年はバランスを崩し、地面に膝を付く。彼が周囲を再び見ようとした時、彼から少し離れた前方に男が一人立っていた。
「お前は……!?」
ソールにはその男に見覚えがあった。それは、ジーフの街で自分とルナを襲ってきた魔導士、ギルだった。
「何でお前がこんな所に……!」
「……」
少年が問い質すも、ギルは何も答えることは無かった。
(何だ……?様子がおかしい)
ソールは目の前に再び現れた男、ギルの様子に違和感を覚えた。以前襲われた時に見せられた狂気が、全く感じられなかったからだ。
「また時計を狙って来たのか!?」
「……」
「お前は何がしたいんだ!」
その問い掛けにも、魔導士ギルは答えない。何を言っても何処か虚ろな表情をしていて、まるで聞いていないかのようだった。
(何だ……?この凄く薄気味悪い感じは……?)
「ルイーナちゃん、後ろに下がって!」
と、ソールは一旦ルイーナの安全を確保しようとする。
「早く、……!?」
ところが、彼女の姿はそこには無かった。
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