第51話 微睡の森
「それにしても、思った以上に濃いな」
森の中を歩きながら、周囲の景色を目を凝らして見渡すグランが言った。
「見渡す限り霧だらけ……そして、進む先は全く見えないと来た」
グランの近くの騎士もつられて周りを見るが、近くの木々以外はその先は全くと言っていいほど霧以外何も見えなかった。
「これじゃ旅人が迷う訳だ」
「グランさんはここには来たことは無いんですか?」
荷馬車の二台からソールが尋ねる。
「あぁ、騎士団全体の遠征は何度か実施したことはあるが、今回の道はこれが初めてとなる」
グランの言葉に若干の不安を覚えながら、ソールは眼を細めてこれから進むべき先を見据えようとする。しかし、そちらも十メートル程先からは何も見えなくなっていた。
「皆、周囲を警戒しながら進むぞ。何が起こるか分からないからな」
「「「はい!」」」
周囲の騎士達が声を揃えて答える。
「……ん?」
そんな中、ソールが人影らしきものを目撃した。
「あれは……女の子?」
その影は昔のルナと同じような背丈の小さな少女の姿をしていた。
「どうしたの、ソール?」
ソールの声に疑問に思うルナ。
「あ、いや、そこに女の子が」
そう言ってソールは目撃した方向に指を指した。しかしそこには霧以外何も見えなかった。
「……何もないじゃない」
「あ、あれ?おかしいな、さっきは誰か女の子がいたんだよ」
「木か何か見間違えたんじゃないの?」
隣の少女にそう言われて、自分の見たはずのものが果たして存在していたのか不安になるソール。
「気のせい、だったのかな」
そうしている間も、騎士団と馬車の参列はどんどん先へと歩みを進めて行く。
「霧が一層濃くなって来たな……」
森の奥へ奥へと進んで行く度に、霧の濃さも比例して強くなっていった。
「……何だ?何か、おかしい気配がするような……」
ソールは自分の身体に起きつつある異変に気付いた。段々と視界がぼやけていくのが分かる。
「……!?」
その時、霧がこれまで以上の濃さを増し、終いには騎士達の周りの視界は殆ど無くなってしまった。
「何だ、これは……明らかにおかしい!」
グランが気付いた時にはもう手遅れだった。グランをはじめとする騎士達も、ソール同様に徐々に意識が薄れていった。
「……く、くそっ」
そうして、次々と意識を失っていった。
「ル、ルナ……」
薄れ行く意識の中、ソールがルナの方を気に掛ける。件の少女の方はすっかり眠ってしまっている。
「……」
そして少年も、深い眠りへと誘われていった。
「……」
眠りについてしまった集団の傍に、一つの人影が立っていた。
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