第50話 不穏な陰
暫く一行が歩いて行くと、濃霧に覆われた森が見える所までやって来た。眠っていたルナも途中で目を覚ましたようだった。
「グランさん、あれは……?」
ソールが不思議な景色を目の当たりにして口を開く。
「あれは『
「一体、何があるって言うんですか?」
「見ての通りさ。あそこの森は深い深い霧に覆い尽くされ、絶えず旅人を惑わせる。中には、一度入って戻って来られなかった者もいると云う噂だ」
その話を聞き、ルナが小刻みに震える。ソールはそれに気付き、腕でルナの身体を抱き寄せる。
「ルナ、もしかして怖いの?」
ソールがそう言うと、
「だっ、大丈夫!怖くなんて、ないんだから」
そう言って彼女はソールの腕を振り払った。
「さて、どうしたものか……」
グランが困ったような声を出した。
「このまま先に進むとして、果たしてその先へと歩めるのか否か……」
先導する騎士は長として、安全と効率を天秤にかける。すると、
「大丈夫ですよ、この数なら」
「オレらだってここまでやって来たんです。ちょっとやそっとじゃ迷いませんよ」
「団長が先に進む限り、私達はそれに続きます」
次々と団長グランを鼓舞する声が上がった。
「……分かった。先に進もう」
かくして、ソールとルナを含めた騎士団は濃霧の森へと入っていったのである。
その時、騎士団の縦列、その後方。
「……ったく、何で俺がこんなことになんだよっ」
荷馬車の中、自称魔導士のキースが両の手を身体の後ろに縄で縛られ、
「おいアンタ。こいつをどうにか出来ねぇのかよ!」
「……」
それに対し、同じく拘束されたカクイは静かに目を閉じていた。
「おい、アンタ。聞いてんのかよ!」
その姿が気に障ったのか、キースが声を荒らげた。
「
激昂するキースとは対照的に、飽くまでも冷静にカクイは告げる。
「ふんっ、そんなことを言ってもアンタだって内心は焦ってしょうがないんだろ」
「喧嘩を売る暇があったら魔導の一つや二つ試しでもしてみたらどうだね?まぁ、君が本当に魔導を扱えるのであれば、の話だがね」
「なっ……気付いてやがったのか!?」
「ふむ。その様子だと矢張真実らしいな。まぁいい、私にはもう一つの計画がこの手にあるのだからな」
不敵な笑みを浮かべながら、カクイは荷馬車に揺られるのであった。まるでその表情は、何かの機会をじっと待っているかのようだった。
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