第45話 領主の館
「……キースの奴め、遅いな」
屋敷で彼を待つ領主カクイは、待ちくたびれていた。
(元々、私が『教会』から逃れて来た彼奴を匿ったことから全てが始まった……。そして今日まで積み上げて来たのだ。この、イーユの町を我が理想の工業発展都市とする為に……)
カクイは自身の胸中で呟く。
「いよいよ……いよいよ明日、我が祈願が成就する。洪水が巻き起これば、キースの提言が正しいと証明される。そうなれば、私のこの町における支持は絶対的な物となる。それだというのに……」
思わず、胸の言葉を吐露する。しかし当の本人は気付かずに。
「それだというのに、彼奴は何をやっておるのだ!魔導の起動準備は順調ではなかったのか!?」
次第に、その声は怒声へと移り変わっていく。怒りを少しでも落ち着かせる為からか、彼は自身の
「全く、いつまで私を
カクイは自室の中をグルグルと歩き回っていた。その動きには一切の落ち着きは見られない。
そんな時だった。
「カクイ!!」
バタンと勢いよく部屋の扉が開かれ、同時に彼の名を呼ぶ少女の声がした。
「!?」
突然の声と音に驚き振り向くと、そこには一組の少年少女が立っていた。
「だ、誰だ!?」
すかさずカクイは二人に問う。しかし二人はその問いには答えず、
「アンタの悪事は全部分かってるんだから!大人しく観念しなさい!」
ビシッ、と人差し指を突き立てながら少女……ルナが言い放った。
「一体何の事なんだか、私には分からな」
「とぼけたって無駄よ。もうアンタの仲間、キースは捕まえてるんだから!」
「何!?」
少女の思わぬ言動にカクイが驚きの声を上げる。
(彼奴め、こんな子どもに遅れを取ったのか!?)
「もう町の人達に知られるのも時間の問題です。どうか、大人しくして下さい」
少女に反し、少年……ソールの方は冷静に告げる。
「くっ」
(落ち着け、相手はたかが子ども二人……私にかかれば取るに足らん!)
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
叫び、カクイは部屋に置いてあったテーブルを両の手で抱え、二人目掛けて投げ飛ばそうとする。しかし、
「そこまでだ!」
ソール達の背後から、鎧を纏った男が一人飛び出したのだった。
「な!?」
突然のことに、カクイは困惑する。
「イーユの現領主、カクイだな」
そんなことは構い無しと男は続けて、
「身柄を拘束させてもらう。大人しくしろ!」
そう言った直後、男を筆頭にぞろぞろと鎧を纏う者達が部屋に雪崩込み、カクイの周囲を固めた。彼らの胸に、キラリと紋様が光っていた。
「その胸の紋章……貴様らまさか、王国騎士か!?」
カクイが鎧の集団の正体を見破る。
「何故貴様らがここに居る!?」
それより数十分前……。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
キースがソール目掛けてナイフを突き立て、突進を仕掛けた。余りの恐怖にソールは目を瞑った。その時、
「止めろ!」
誰かの声と共に、キィィィィン!と甲高い音がした。その直後、ソールが目を開けると、目の前にはその手に握った剣でナイフを制する、茶髪の男が居た。
「な、何だお前は!?」
突然割り込んで来た男に、キースは咄嗟に距離を取る。どうやら彼も混乱しているようだった。
「俺はグラン。王国直属の騎士だ」
「騎士……だと!?」
その言葉にキースは戸惑いを隠せずにいた。
「まさか、俺のことを追いかけてた『教会』の連中が
「何を思ってるのかは知らんが、俺はただ、この近くに遠征に来ただけだ。そうしたら貴方達の騒動を目撃したという訳さ。しかし……」
キースとソール達を交互に見た後、グランと名乗った騎士の男は前を向いて、
「こうして関わった以上、貴方を野放しにしておく訳にはいかない。拘束させてもらう」
「という訳で、この子達に話を聴いた俺達王国騎士は彼らに協力しようと思い立った訳だ。貴方のお仲間は俺の部下が捕らえている。貴方も大人しくすることだ」
「……くそっ!」
カクイはやけくそ気味に床にテーブルを叩き付けた。かくして、イーユの町は領主の手から解放されたのだった。
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