第43話 刹那の違和感

(ルナ!?何をしているんだ!?)


 突然のルナの行動に、ソールもつられて茂みから出そうになるのを必死に堪える。


「……何だい、君は?」


 キースがルナに驚きながらも笑顔で尋ねる。その口調は以前の丁寧なものに変わった。


「とぼけないで。それで、そのルーンって物を使って雨を降らせようとしてるんでしょ。全部分かってるんだから。貴方達がイーユを洪水で困らせようとしてることだって、全部ね!」


「……なるほどな。随分と元気なお嬢さんだ」


 ルナの話を聞いたキースの声色が、その口調と共に邪悪なものへと豹変する。


「何で魔導を知ってるのかは知らないが……知っちまったんならしょうがねぇ。タダじゃ済まねぇぞ」


 と、ルナを鋭い眼光で睨み付ける。


「……!」


 その視線に怯みながらも、ルナは果敢に立ち向かおうとする。


「お、脅したって貴方のやってることは変わらない」


「あぁそうさ、俺のやることは変わらない」


「でも、そうはさせない!」


「ほう、どうするってんだ?」


 キースは少女を相手に余裕の態度を示すかのように、ルーンの起動を優先させる。そんなキースの問いかけに、ルナは行動で示した。ルナは走り出すと、キース目掛けて体当たりを仕掛けた。


「!?」


 突然のことに、キースの身体がよろめく。


(ルナ!?)


(今だ!)


 その隙を見逃さなかったルナは、キースがつい手放し地面に落ちたルーンの木板を手に取った。


「……しまった、ルーンが!?」


「やった!これさえ奪えば……」


 ルーンと共に一時的にその場の優位を獲得したルナ。それに対し、


(……あれ?)


 茂みの中のソールは違和感を感じていた。


(何だ……この感じは?)


 ソールがそうしている間も、状況は一転していく。


「ちょいと冗談が過ぎるぞ、お嬢さん」


 キースが姿勢を立て直す。その声には怒りが含まれていた。


「……」


 ルナがルーンを握り締め、キースを睨む。


「これは、渡さない……!」


「返せ!」


 キースはルナからルーンの木札を奪おうと掴みかかろうとする。ルナはすかさずそれを躱す。


「させない!」


 キースは再三再四襲い掛かり、ルナはそれを次々とすんでのところで避ける。


「……このっ、調子に乗りやがって」


 痺れを切らせたキースは再び懐から何かを取り出す。それは、刃渡り六センチ程のナイフだった。


(……!ルナ!)


 いよいよルナの危険を感じたソールが、二人の間に割って入った。


「させない!」


「……っ、ソール!」


「……お前も確か、昨日居たやつだよな?」


 キースの問いに、ソールは答えなかった。


(……やっぱりおかしい。どうして、攻撃手段に魔導を使わない?)


 ソールはその状況下でも思考する。やがて、一つの答えに辿り着いた。


「……なるほど、そういうことか」


 合点がいったのか、ふっ、と口元に笑みを浮かべながらソールは呟いた。


「あん?」


「どうして、そんなナイフを使うんですか?」


「……何が言いてぇんだ?」


 ソールは核心を突いて、宣言する。






「貴方は、本物の魔導士なんかじゃない」

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