第42話 ルーンの起動

 翌朝、目覚めた二人は早くからクレイの家を出発し、昨日行った領主カクイの屋敷へ向かっていた。


「ねぇソール、これからどうするの?」


「領主……カクイ達が悪事を働いているのはあの会話からして間違いないと思うんだ。だから、決定的な証拠……魔導を使う瞬間を押さえられればいいんだけど」


「なるほど、つまり見張って様子を見ようって訳ね」


「そういうこと」


 ソールは少し得意気に話す。


(……とは言っても、本当にあの魔導士が来るっていう確証はないんだけど)


 そうしてソール達は森の茂みの中に身を潜めて、魔導士が現れるのを待つことにしたのだった。






「……来ないね」


「……うん、そうだね」


 森の中、3時間もの間低い姿勢を保ちながら佇む二人は、待ち続ける人物が一向に現れず途方に暮れていた。


「ねぇどうすんの、これ!?もうあいつらが言ってた魔導の準備が出来ちゃってたんだったら私達完全に馬鹿みたいじゃない!?」


「ルナ落ち着いて!大丈夫、大丈夫だから……多分」


 取り乱しそうになるルナを必死に制止しながらも、ソールの声はか細くなっていった。


(これはまずい……僕の読みが浅はかだったかも。ルナはすっかり機嫌悪くなっちゃったし、魔導士は来ないし、どうしよう……)


 と、ソールがあたふたしている時だった。


「……!ソール、あれ!」


 ルナが小さいながらも高い声でソールを呼ぶ。


「……来た!」


 遠くから来る人影を見て、ソール達に緊張が走る。それは領主カクイの側近、魔導士らしき男キースだった。


「「……」」


 茂みに身を隠す二人は、声を出すまいと口元に手を当てながら、キースの様子を伺う。


「……全く、面倒なものだな」


 キースが独り言を口にした。その口振りは町で出会ったものとは全く異なるものだった。


「幾ら自分の思い通りに町を変えたいとはいえ、本当に俺に頼んで洪水なんか起こすもんかねぇ」


 頭を掻きながらキースは呟く。


(……やっぱり、魔導をやる気なんだ、あの人は)


 その一言でソールは確信を持った。


「領主様の考えることは分からないが……まぁ隠れみのとして精々利用させてもらうとするか。……さて、始めますかね」


 面倒臭そうに言いながらキースは懐から何かを取り出した。


(あれは……確か)


 ソールにはそれに見覚えがあった。それは、以前自分達を襲って来た魔導士が使っていたものと同じ木の板だった。


「ねぇ、ソール。あれって……」


 ルナがソールに声を掛ける。どうやら、彼女の方も見当がついたらしい。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 キースが木の板を空へとかざしながら気を集中させる素振りを見せる。すると木の板は淡い光を帯び始め、キースの頭上の空には黒雲が出来始めた。


(間違いない……あれはルーンだ)


 ソールがそう思った時だった。


「見たわ、確かな証拠を!」


 ルナが茂みから飛び出し、キースに向かって言い放ったのだった。

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