第41話 それぞれの夜

 クレイを落ち着かせたルナとソールは、クレイの家に一緒に戻った。そこでクレアに事情を説明し、クレイを引き渡して去ろうとしたが、


「貴方達、旅をしてるんでしょ?だったら、ウチに泊まっていきなさい。この子のお礼もちゃんとしたいし、ここなら屋根もあるし安全でしょう?」


「でもいいんですか?僕達の話、信じてくれるんですか?」


「信じるも何も、貴方達が嘘を吐いても得なんてないじゃない。それに、この子も嘘を吐く子じゃないもの。何より、貴方達が嘘を吐くだなんて考えられないわ」


 クレアの温かい言葉に、ソールはその眼に涙を浮かべつつ礼を述べた。


「……ありがとう、ございます」






 その夜、ソールとルナはクレアの言葉に甘え、その家で過ごすこととなった。限りある貴重な夕食を分けてもらい、寝るための部屋まで提供された二人は少し申し訳なさそうにしながらも床に就こうとした。


「さてどうするか、だね」


 同じ部屋で寝ることになったソールがルナに投げかける。


「ねぇソール、無理してるでしょ」


 すると少女は少年が思わぬ言葉で返した。


「……何が?」


「隠すの下手だよねぇ。ま、もう慣れっこなんだけど」


 少年の戸惑いに構わず少女は続ける。


「あの子……クレイ君が泣いていた時、ソールったら眼をピクッとさせながら見つめてた。昔のソールと重ねてたんでしょ?」


「……」


 少女の核心を突くような言葉に、ソールは黙ってしまった。思わずソールが彼女の方を見ると、彼女は眼を瞑ったまま、


「やっぱり、そうだよね。似てたもん、ソールと。だからこそ、私もあの子の力になりたいって思っちゃったんだよねぇ。ホント勝手だよね、私って」


 クスクスと苦笑しながらも彼女は言った。それにソールは、


「……そんなことないよ」


「え?」


「僕だって、あの子を見て力になりたいって思ったんだ。これは、僕の本心なんだ。だから、身勝手なんかじゃないよ」


(……やっぱりこういう時ちょっとズレてるんだよねぇ。それでいて、しっかりと優しいんだもんなぁ)


「ズルいよ」


「え?」


「ううん、何でもないよ。おやすみ」


 そう言うと、ルナは眠る姿勢に就いた。


(……何なんだ、一体?)


 疑問に思いながらも、ソールも彼女に続いて眠りに就く。






 その頃、イーユの町の近くの森の中。


「で、何処に行ってたんだ?」


「……別に、何でもないわ」


 一組の男女が焚火たきびを挟み、話していた。その内の赤髪の男が青髪の女に向けて言う。


「またお前のことだ、余計なことに首を突っ込んでるんじゃないかと思ってな」


「……大丈夫よ」


「大概にしておけよ。面倒なことにはなりたくないしな」


「だから、大丈夫。心配しないで」


 そうして言い合っている内に、焚火がパチン、と火花を散らせた。


「薪を調達して来る。ここに居ろ」


「……分かった」


 そう言うと、男は森の中へと進んで行った。後には女が一人、残されて。


(……分かってる、余計なことだってことは。でも)


 女……魔導士ウォルは静かにその思いをせていた。


(あの子達なら、きっと……)

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