第40話 少年の勇気

「みんなー!聞いてーーーーーー!!」


 瓦解した建物の上に立ち、一人の少年が叫んでいた。当然の如く周りの人々の視線が集まる。


「あの領主達が洪水を引き起こしてこの町を襲おうとしてるんだ!早くみんなであいつらをやっつけないと、この町が危ないんだ!」


 少年は声高らかに叫ぶ。


「そうすれば、こんなにひどい思いをすることなんてないんだ!今までのことだってみんな、あいつらのしわざだったんだ!!」


 少年の声は高く響いた。しかし、その悲痛な呼び掛けに反し住民達はケタケタと笑っていた。


「あの領主さんがそんなことをする訳ないだろ」


「どうして領主様がそんなことをする必要があるんだい?」


「冷やかしも大概にしておきなさい」


 少年の声は住民達の心には届かず、返される言葉は少年の言葉を否定するものばかりだった。


「ホントなんだ、信じてよ!!」


 少年の叫びもむなしく、人々は気にも留めず道を行き交っていく。


「そ、そんな……」


 少年の声はやがて小さくなっていった。






「はぁ、はぁ、はぁ」


 息を切らしながら、ソール達はイーユの町まで戻って来た。


「クレイ君、どうか早まらないでくれ」


 願いながら、ソール達はクレイを探す。すると、


「ねぇ、ソール。あそこ……」


 ルナがある空き地を指差す。ソールは最初、瓦解した建物の石屑があるだけかと思ったが、よく見ると少年が一人、隅の方でうつむき座り込んでいた。


「居た、クレイ君!」


 目に入り、少年の元へ駆け寄るソールとルナ。


「どうしたの、大丈夫?」


 ソールの問いかけに、クレイは答えず塞ぎ込んでいた。


(これは、もう遅かったか……)


 ソールはこうなることを想定していた。自分達子どもが幾ら叫んだとしても、領主に信頼を置いている人々を納得させるに十分な確証がなければ説得は難しいと分かっていたからだ。


「……」


 下を向くクレイに、ソールは掛ける言葉が見つからなかった。


「……ねぇ、クレイ君」


 そんなソールを見て、今度はルナが声を掛ける。


「頑張ってみんなに危険を知らせようとしてたんだよね。お姉ちゃんはすごく立派だと思うよ。」


「……でも、誰も信じてくれなかったよ」


 少年の声は、少し震えていた。


「……そっか。でも、私達は分かってるよ。君が、みんなのためを思ってしたってこと。みんなのことを想える、優しい心を持ってるってこと。だから、顔を上げて。きっと、みんなを助けるから」


 その言葉に、少年はゆっくりと顔をルナに向けた。その顔は涙で濡れ、くしゃくしゃに歪んでいた。


「大丈夫だよ」


 ルナがそっと少年を抱き寄せる。


「私達がなんとかする。だから、元気を出して」


 ルナは泣きじゃくるクレイを宥めた。それを傍で見ていたソールは、自らの拳を強く握り締めた。

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