第39話 静かな警告

「貴方は……」


 ソールが女の正体に気付く。それはウォルという魔導士だった。


「またアンタなの」


 ルナがソールとウォルの間に入り、言った。


「今度は何の用?まさかまたソールの時計を取りに来たんじゃないでしょうね?」


 目の前に現れたウォルに対し、毅然きぜんとした態度でルナは問いかける。


「……勘違いしないで。私は、警告しに来た。それだけ」


 それに反し、ウォルの方は静かに答えた。


「警告……?」


「そう……」


 どうも話が見えないソールは、ウォルに訊く。


「一体、何の警告だって言うんですか?」


「……貴方達が関わろうとしている、あの町のことよ」


 ウォルは的確にソール達が抱えようとしているものを指摘した。


(この前と同じく、この人からは敵意が全くと言っていいくらい感じられない。僕達を思ってのこと、なのかな?そうだとしたら)


「……どうして、ですか?」


 ソールは恐る恐る訊いた。その先に、自分達に不都合となる何かがあると分かりながらも。


「貴方達に、得がないから」


 魔導士ウォルは続ける。


「あの町の領主、カクイは、とても危険な男……目的の為なら、何をするか分からない。貴方達の身に、何か起きるかもしれない」


「……ひょっとして、僕達のことを心配して出て来てくれたんですか?」


 ソールがそう言うと、ウォルは黙って下を向いてしまった。どうやら性格的にかなり内気な方らしい。


「ありがとうございます。でも、それなら、余計に放ってはおけないです。もう、僕達よりも小さな男の子が動いているんです。涙ぐんで、力を精一杯振り絞って。だから、僕らは止められても、先に進みます」


 そう言って、ソールはルナを連れて森の中を駆け抜けて行った。


「……」


 一人残ったウォルは静かにそれを見送り、そして、


「やっぱり、あの子なら……」


 そう呟いて、森の中へと消えていった。






「ねぇソール。さっきの人」


 ソールに手を引っ張られ、後を走りながらルナは言葉を紡ぐ。


「この町で起きた災害……またあの人達が関わってるってことじゃないんだよね?」


「……多分、違うと思う」


 足を止めることなく、ソールは答える。


「もしそうだったら、わざわざ僕らの前に現れないよ」


(でもさっきの話、気になることはある)


 ソールは走りながらも思考する。


(もし、そうだとしたら、僕らがするべきことは……)


「ソール、見えてきたよ!」


 視線を地の方に向けていたソールに対して、ルナが叫んだ。その声に反応し視線を上げると、その眼にはイーユの町が見えてきたのだった。


「よし、取り敢えず、クレイ君を探そう!」


「うん!」 

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