第38話 イーユの森の中で

「なんとか戻って来れたね……」


 カクイの屋敷から走って離れ、ソールとルナは森の中で一先ず休息を取ることにした。夕暮れで紅く染まった木々の下で、互いに速る鼓動を落ち着かせる。


「……それにしても、本当だったとはね」


 先程まで聞いていた話を振り返り、ソールは言う。


「クレイ君が言ってたことには、嘘偽りなんてなかった」


 自分達の耳で聞いた事実を、言葉にすることで再確認する。


「うん、そうだった。でも……」


 ルナが不安そうな声を出した。


「仮に話したとして、町の人達は信じてくれるかな?」


「……」


 ソールは沈黙した。何故なら、彼にも町の住民達を信じさせ、味方に付ける確証がなかったからだ。


(難しいだろうなぁ……大人が話すのならまだしも、話すのは僕ら子どもなんだ。それに僕とルナは完全にこの町のからすれば部外者なんだ。そう簡単には信じてくれないに決まってる)


 ソールは自分の中で考えを巡らせる。しかし、思い付くのは町の住民への説得でつまずくことばかりだった。


「ソール、やっぱり難しいんじゃないかって思ってる?」


 ルナのその問いかけに、ソールは静かに首を縦に振った。


「でも、私達がどうにかして町のみんなに知らせないと……。明後日には、町が洪水に巻き込まれちゃう」


「それ、本当なの?」


 突如として聞こえたその声のした方へ視線を向けると、そこにはクレイが立っていた。


「クレイ君じゃない、どうして?家に帰ったはずじゃ……」


「お姉ちゃん達のことが気になって来たんだ。そしたら」


 クレイは、先刻聞いた話を確認するために言葉を紡ぐ。


「本当に明後日、町に洪水が起きるの?」


 その質問に、ソールとルナは互いに顔を見合わせる。そして、コクリと頷いた。


「あいつらが、やろうとしてるんだよね?」


「……うん」


 その問いに、ソール達は肯定せざるを得なかった。


「……」


 クレイは暫しの間、沈黙して立ったままだった。しかし、


「……!」


 涙ぐみながらも意を決したかのような表情を二人に見せると、すかさず走って行った。


「クレイ君!」


(まずい……クレイ君が町のみんなにこのことを知らせたとして、それがカクイ達の耳にでも入ったら何が起きるか……!)


 ソールは最悪の事態を想像し、クレイを制止しようとする。


 その時だった。






「止めておきなさい」


 何処からか、ソール達を止める女の声がした。


「貴方達は、首を突っ込むべきじゃないわ」


「誰だ!?」


 ソールが叫ぶと、木陰から青色の髪をした女がゆっくりと出て来たのだった。

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