第37話 二人は何を語るか
領主の後を追いかけることにした二人は、気付けば町の外れまで来ていた。
「一体どこまで行くんだろう?」
町から出て森の中を木陰に隠れながら後をつけて行くと、カクイ達は細い道に進んで行った。
「私達も行ってみよ」
「あ、ちょっと待ってよルナ!」
小声でルナを制止しようとしたが、彼女は彼女で進んで行く。
「……ここが領主の家ってとこかな?」
そう言うソール達の視線の先に歩くカクイとキースは、迷うことなくその建物へと入って行った。
「よし、行こ!」
「ちょ、ちょっと待って!まずいって!」
ソールの言葉を意に介さず、ルナはその屋敷の入り口へと近づいていく。そうして二人は大きな扉の前へと着いてしまった。
「……ここからどうするの?流石にドアをノックして開けてもらう訳にはいかない、よね」
「当たり前じゃない、お客じゃないんだから。飽くまで私達は敵情視察に来てんのよ」
何処でそんな言葉を覚えたんだろう、と疑問に思いながらもソールはルナの言い分に納得する。
「あそこからなら中を見られるかな?」
そう言ってルナが視線を移したのは、庭を広く見渡せるほどの窓だった。幸か不幸か、その窓にはカーテンのような外の景色を遮るものは見受けられなかった。
「……よし」
覚悟を決めたルナはその窓へとゆっくり近づいていく。それにつられてソールも恐る恐る歩を進めていった。
その時だった。
ばん、と窓が建物の内側に開く音がした。
「!?」
「それにしても、住民には苦労を掛けられるものだな」
二人の頭上から声がした。
(この声、領主のカクイ?)
ソールはそう断定した。しかし件の人物の声色は普段住民に見せているものとは違い、何処か冷たさがあるとソールは感じた。
「まったく、不穏分子の監視とはいえ、この私が自ら出向くことになるのは矢張り不服だな。君はどう思うね?」
「そうだな……確かに非効率ではあるな」
(話相手は……キースとかいう付き人、かな?)
自分の中で察しを付けるが、ソールは戸惑った。何故なら、どちらも町での様子とはおおよそ同じとは言えない雰囲気だったからだ。
「……だが、今はそうするしかないだろう。ある程度は住民の信頼を獲得しているとはいえ、未だ開拓の反対派はいるのだ。地道な活動こそ実を結ぶのだよ、カクイ」
「ふっ……流石は君といった所か」
不敵な笑みを浮かべるカクイ。ソールとのその距離は数センチ。陰に潜み話を聴くソールの額には脂汗が
「全く君にはつくづく感心させられるよ、キース。君が私の前に現れた5年前から、ね」
「止めてくれ、もう昔の話だろう」
「いや、私は昨日のことのように覚えているぞ。魔導士として難を逃れ君がこの町にやって来た、思えばこれは運命だったのだよ」
(魔導士、だって!?)
ソールは思わず声を出しそうになるのを必死に堪えながら耳を立てていた。彼が横に視線をやると、ルナも声を漏らさまいと口元を両の手で押さえ、目を瞑っていた。
「おや、君にとってはあまり思い出したくないことだったかな?」
「……いや、いい。もうアンタとのやり取りには慣れた」
「そうか」
カクイは窓枠に手を掛ける。
「ところで、例の魔導はどうかね?」
「準備は順調に進んでいる。明後日には町に大雨を降らせ、洪水を起こすことは可能だ」
(洪水……だって!?)
ソールは再び話の内容に反応する。そして自分の中でその言葉を
「そうか、ならいい。……この町が私の理想の工業都市に生まれ変わるのも時間の問題という訳だな。結構なことだ」
高らかに笑いながら、カクイは部屋から出て行った。ソール達はその場で、彼の声が遠のいて行くのを感じていた。
「……」
部屋の中には、キースが一人立っていた。
「ふっ、呑気な男だ。まぁ精々隠れ
そう小さく言いながら、窓を閉めるため知らずしてソール達に近づいて行く。
「……」
そして無言で、キースはバタンと窓を閉じた。
「……ふぅ」
ずっと続いた緊張が解け、ソールとルナは一息吐いた。
「危ない所だった……。さぁ、もう行こうよルナ」
コクリとルナは力強く頷き、二人はその場からこっそりと離れて行った。
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