第36話 陰から見る
「どうしたの、ソール?」
何かを見つけた様子のソールに、ルナは声を掛ける。
「しっ、静かに」
そう言ってソールは口に指を当てながら、ルナと共に近くにあった建物の陰に隠れた。ソールが腕でルナを自身の後ろへと抱える形で彼女の肩を掴んだ。ソールは気付いていなかったが、ルナの顔は少し紅潮していた。
「……どうしたの?」
先程制止されたため、ルナは小声でソールに訊いた。
「あの領主だよ」
と、ルナがソールの視線の先に目をやると、そこには領主カクイと付き人のキースが住民と会話をしている所だった。
「どうですかな、調子の程は?」
「まぁ、豊かではありませんが、存外元気に暮らしておりますよ」
「そうですか、それなら良かったです」
ソール達は耳を澄ませて会話を聞く。
「それにしても、こうやって足を運んでくださりありがとうございます」
「いえいえ、私にはこんなことくらいしか出来ませんので。時々ではありますが、こうやって直に貴方がた住民の声を聴くということが、この町をより良くする方法だと信じております」
「いやはや、大したお方だ」
カクイの相手が彼を褒め称えている。
「……カクイ様、そろそろ」
「おぉ、そうだな。それじゃ、お元気で。また何かあったら様子を見させて下さい」
と、カクイとキースはその場から歩いて去って行った。
「……もう用は済んだみたいだな」
カクイとキースが離れて行ったことを確認し、ソールは緊張を解く。自然とフッと息を吐いていた。
「さて、どうしようか」
その時、ルナの頭にはあることが思い浮かんでいた。
「……後をつけてみようか」
「えっ!?」
ルナの発言にソールはひどく驚いた。幾ら彼女の性格だからといって、流石に大胆だと思ったのだ。
「だって、気にならない?あいつらが本当に悪い奴らなのか」
「それはそうだけど、危険じゃないかな?」
少年クレイの話を思い出し、ソールは難色を示す。
「何言ってんの。クレイ君だって勇気を出してあいつらの怪しい行動を見つけたんだよ?それに私達もそうしたことを見たって言えば、町の人だって信じてくれるかも」
ルナの言っていることは的を射ている。現状、クレイの言い分だけではカクイとキースがしていることの十分な証拠になるとは言い難い。ソールもそれを理解していた。だからこそ、
「……分かったよ。ただし、危ないと思ったらすぐに逃げよう。クレイ君が顔を見られたとはまだ限らないけど、もし本当に彼らが悪党だったら、僕達まで見張ってるなんてバレたら一体何をするか分からないし」
「分かった、それでいいよ。行こう!」
かくして二人は、カクイとキースを追いかけることにした。
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