第35話 少年が語るは
「どう、少しは落ち着いたかな?」
息を荒くしていたクレイを、ルナは懸命に宥めて落ち着かせていた。
「うん……もう平気」
冷静さを取り戻した小さな少年は低い石垣に座っていた。それに付き添うソールとルナは少年の前に立っていた。
「それで、そろそろ教えてくれないかな?どうして逃げていたのか」
ソールの問いに、少年は顔を逸らした。その様子を見たソールは、
「もしかして、君が数日居なくなったことに関係しているのかな?」
と、更なる問いをクレイに投げかけた。これに対し、クレイはその小さな身体をピクりと震わせた。
「どうやら当たってるみたいだね」
「どういうこと?ソール」
ソールの言葉に、ルナは首を傾げる。
「さっきのクレアさんの話が気になってたんだ。クレイ君は数日居なくなっていたって。でも、僕達が彼と出会ったあの森は、この町から歩いて行っても精々三時間掛かるくらいだ。そんなに離れた距離じゃない。だから、その他に何処かに行ったとしか考えられないんだよ」
少年の様子を伺いながらソールは続ける。
「それで居なくなった数日の内に、君は何かを見てしまった。……違うかな?」
ソールは再度クレイに問いかける。
「……そうだよ」
少しの沈黙の後、クレイは答えた。
「一体、何をしてたの?」
ルナが穏やかな声で問いかける。
「僕は……あいつらの住み家を見ようと思ったんだ」
「あいつら?」
少年クレイは、静かに語り始める。
日が暮れた頃、ソールとルナは町の様子を見て回り、疲れ果てていた。
「それにしても、町での評判はいいみたいね、あの領主」
ルナがソールに話し掛けた。
「うん、そうだね」
二人は昼に出逢った領主とその付き人について町中で聞き回っていた。相対する人々は眼に光を失っている者も少なくなく、町全体に何処か不気味な雰囲気が漂っているのを、二人は感じていた。
「『領主さんは私達を気遣ってくれている』だとか『領主様のご意見は正しかったんだ』だとか、結構な評価をされてるみたいよ」
「だとしても、クレイ君の言ってたことを考えると飽くまでも表面的な顔に過ぎないってことも言えるけどね」
二人は町の住民の言い分とクレイの話を照らし合わせる。
『あいつら、領主と一緒にいる奴は、この町のみんなを騙してるんだ』
『それはどういう意味?』
クレイの突然の言葉に、ソールは問う。
『……四日前、またすごい大雨が町で起きて、みんな困ってたんだ。うちもずっと野菜を育ててたから、お父さんもお母さんも畑を見て悲しい顔してた。他のみんなも、ここはやっぱりもうダメなんだって言ってた。でも、違ったんだ』
クレイは息を吐く間もなく口早々に続ける。
『その前にぼく、見たんだ、木の陰から。あいつらが何か怪しい言葉で呟いて何かを空に
小さな少年は目の前の二人に必死に訴える。
『あいつらはこの町が呪われてるだなんて言ってたけど、本当はあいつらが何かしてたからだったんだ!だから野菜や果物がダメになっちゃったんだよ!』
『だから、あの二人を睨んでたんだね』
ソールがクレイに答え合わせをする。
『うん……。でも、もう一度それを見てやろうと思ってその場所に行った時に、向こうがこっちを見たんだ。だから……』
『あの二人に見つかったと思った、そういう訳ね』
ルナがクレイに尋ねると、クレイは首を縦に振った。
『そっか……。それじゃ、あいつらに何かされないか怖かったよね』
ルナは腰を下げてクレイを抱き締め、その頭を優しく撫でた。
『怖かったね……。でも、大丈夫』
そう言うとルナはすくっと立ち上がり、ソールの方を見た。
『お姉ちゃん達が何とかしてあげる。そうでしょ、ソール?』
それに対しソールも首を縦に振った。元より、答えなど決まっていたのだ。
『それじゃ、クレイ君は一度家に帰ってて。そっちの方が安全だし、お姉さんもきっと心配するから』
「……流石に町中では尻尾を出してないか」
諦めて、一度クレイの戻った家へと二人も戻ろうとした時だった。
「あれは……」
再び、ソールが領主カクイの姿を見かけたのだった。
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