第34話 少年の行方

「あっ、待って!」


 クレイの様子が気になったルナとソールは、彼の後を追いかけた。しかし、町の分かれ道に差し掛かったところで彼を見失ってしまった。


「……何処に行ったんだろう?」


「見失っちゃったね……」


 少年を見失い、途方に暮れた二人は、一度少年の家に戻ろうと踵を返した。その時だった。




「あら、誰かお探しかしら?」


 と、声のした方を見ると瓦礫がれきの山のてっぺんに妖艶ようえんな雰囲気を出している女が腰掛けていた。女は黒い長髪に黒いドレスを身に纏い、余裕めいた表情で二人を見下ろしていた。


「えっと、あなたは?」


 ルナが女に尋ねる。すると女は立ち上がり、


「私?私は……ソフィア」


 女は瓦礫の山からゆっくりと降りながら名乗る。平衡感覚が良いのか、躓くことなく二人の元に近寄って来る。


「貴方達、この町の人間じゃないわよね?」


 女は最初から知っていたかの如く、確認として問いを二人に投げかけていた。


「……はい、そうですけど」


 ソフィアと名乗った女が放つ並々ならぬ雰囲気に警戒の色を強めながら、ソールは答える。その額には汗が滲み出ていた。


「そんなに緊張しなくてもいいわ。別に取って食べる訳じゃないんだし」


 クスクスと不敵な笑みを浮かべながら女は言う。飽くまでも余裕の表情を崩さずに。その姿はまるでこの場の優位性を示すかのようだった。


「あの、こっちに男の子が来ませんでしたか?」


 ルナがソフィアに問いかける。彼女も、女の異様な雰囲気には気が付いていたが、横にいるソールの様子を見た上での行動だった。


「えぇ、来たわよ。あっちの方に走って行ったわ」


 そう言って女は一本の道を細長い指で指し示した。二人がそちらの方を向く。


「ありがとうござ……!?」


 ルナが女に礼を言うために振り返ると、そこにはもう女の姿は何処にもなかった。






「はぁ、はぁ、はぁ……」


 一人の少年が、町の中を走っていた。


「ここまで来れば大丈夫、かな」


 少年は逃げ惑うかのように走った。しかし、それはソール達から逃げている訳ではない。そもそも、二人から逃げる理由がないのだ。


(あいつら……)


 少年は頭の中で先程までの出来事を思い出していた。


(お兄ちゃん達の後ろで……、確かに僕を見てた!)


 少年は領主とその付き人から逃れるために奔走していた。息が切れているのは疲れからか、それとも動悸からか、少年自身にも分からなかった。


「あ、やっと見つけた!」


 遠くの方で声がした。思わず一瞬、少年はビクッと身を震わせたが、その声の主が少女であると分かり安堵した。


「良かった、見つかって。……何で逃げてたの?」


 少女はクレイに優しい声で話し掛ける。クレイは気を重くしていたが、その口を開いた。


「僕がいると、巻き込んじゃうんだ……」

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