第33話 領主の陰

 クレアの家を出たソールとルナは、イーユの町を見て回ることにした。


「ねぇ、さっきの話、どう思う?」


 歩きながらルナがソールに訊く。どうやら、ソールだけではなくルナにも引っ掛かる所があったらしい。


「……それを訊くってことは、やっぱりルナも気になるんだね」


「うん……、『まじない師』って言っていたけど、あれってやっぱり」


 そう言った時だった。ドン、とルナが誰か人にぶつかったらしい。


「おっと」


「あ、ごめんなさい」


 謝り、頭を下げるルナ。再び頭を上げると、そこには二人の男が立っていた。


「いや、いいよいいよ。こちらも不注意で悪かったね」


 ルナとぶつかった方が声を掛ける。男は四十代くらいの中肉中背で、顎鬚あごひげを生やしていた。


「ところでキミ達、見慣れない顔だけど何処からか来たのかな?」


 もう一人の男が尋ねてきた。その男は先程の男よりも痩せていて背丈も一八〇センチ程の青年だった。


二人の男達はどちらもスーツを着ており、普通の身分ではない雰囲気を出していた。


「あ、僕達は旅をしていて偶然この町に来たんです」


 ソールが返答した。


「そうでしたか。通りで荷物を抱えている訳だ」


 顎鬚の男が納得した様子で言った。


「私はこう見えても領主をさせてもらっている者でね、カクイと申します。どうぞ宜しく」


「付き人のキースです。以後お見知りおきを」


 続けて細身の男が自己紹介をした。丁寧な口調ではあったが、その高身長のためか何処か圧迫感をソールは感じていた。


「ご丁寧にどうも。僕はソールです。で、こっちがルナ」


「初めまして」


 再びソールとルナは頭を下げて挨拶をする。


よろしく。この町には何か用があって来たのかな?」


(旅の目的は伏せて置いたほうがいいかな……)


 二人に何か探りを入れるかのようなカクイの問いに、ソールは一瞬迷ったが答える。


「いえ、僕達は偶然立ち寄っただけで」


「そうでしたか、まぁゆっくりして行って下さい」


 そう言うと、カクイとキースと名乗った男達は立ち去って行った。


「あれが領主か……」


 ソールは去って行く二人の後ろ姿を見つめていた。


「あいつらだよ」


 突然聞こえた声に反応し、二人は振り返る。するとそこにはクレイが立っていた。


「うわっ!?びっくりした」


 ソールと同じく、ルナもこれには驚いたらしかった。どうやら、クレイは二人の後をこっそりと付いてきたようだ。


「どうしたの?クレイ君」


 ルナが聞くが、クレイは先程の言葉を続けて、


「……あいつらが、みんな悪いんだ」


「……え?」


 睨みつけるかのようなクレイの鋭い視線に、ソール達はそこに何か事情があるということを察したのだった。


「それはどういう」


 ソールが聞く前に、クレイは黙って駆けて行った。

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