第32話 枯れた大地
「クレイ、クレイなの!?」
そう言って飛び出して来たのは長い灰色の髪をしており、ソール達より三、四つほど上の少女だった。駆けて来た少女は一目散にクレイの所まで着くや否や、彼をぎゅっと両腕で抱き締めた。
「良かった……。心配したんだからねっ」
「……ごめんなさい」
少女の言葉に、クレイは申し訳ないといった表情で小さな声で言った。
「まったく、急に何処かに行ったと思ったら二日も帰って来ないんだもん。どうしようかと思ったわよ」
「二日……?」
少女のその言葉に、ソールは引っ掛かる所があった。
(確か、僕らが出会ったのはあの森の中だ。あそこからここまでそんなに時間は掛からないはずだけど……)
ソールがそんなことを考えていると、少女が二人に気付いた。
「あら、そちらは?」
「どうも、ソールと言います。こっちはルナです」
「どうもー、旅をしてる者です」
ソールに続いてルナが簡潔に言った。
「あらそうなの?私はクレア。クレイの姉よ、宜しくね」
「はい、宜しくお願いします」
家の中に招かれた二人は、クレアから話を聴くことにした。これまでの概ねの経緯について、ソールはクレアに話したのだった。
「そう、それで旅をしようと思ったのね」
「はい」
「……ごめんなさいね、あまりお構いも出来なくて」
茶を出すことも出来ない自分に後ろめたさがあるのか、クレアは段々と声が小さくなっていった。
「全然大丈夫ですよ。……それより、聞きたいことがあるんですが」
ソールが、町に来た時より感じていたことをいよいよ訊こうとする。
「私が答えられることなら、喜んで」
クレアは微笑みながら返した。彼女のその表情を思うと辛い所があったが、ソールは思い切って訊くことにした。
「この町は、いつからこうなんですか?話に聞いていた様子とは大分違うんですけど」
「……」
その質問に、クレアは少しの間静かになってしまった。しかし気を取り直したのか、
「この町が農業が盛んだったのは知ってる?」
ソールはコクリと頷いた。クレアは椅子から立ち上がり続けた。
「そう……。でもそれは過去の話。今はこの町はこんな有り様になってしまった」
クレアは部屋の窓に近づき、手を当てて外を見つめた。
「数年前のことよ。ある時からここの辺りで異常気象が立て続けに起きたの。そのせいで農作物はダメになり、その後不作が続いたの。そうして農業発展を遂げていたこの町は見る見るうちに衰退して行って、果てにはこんな荒れ果てた土地になってしまった。……人間は、自然には勝てなかったのよ」
「そんなことが……」
ソールはつい言葉を発した。
(でも、ケイトさんから聞いたことと町の様子が違ったことの説明は付く。いや、でも……)
「そんなに天気が変わるのって、おかしくないですか?しかもここら辺だけって」
ソールはクレアの話に疑問を抱いていた。何故ならば、ここ数年、そのような異常気象が起きたことがジーフの街には無かったからだ。範囲的な気象の変化に、ソールは不自然だと感じていた。
「勿論、私をはじめとした住民達はおかしいと思ったわ。だからこそ、領主さんの計らいでここ周辺の調査が行われることになったの。有力な
「呪い師!?」
思い掛けない単語が出てきて、ソールとルナは驚いた。
「えぇ、何でも天候に精通している呪い師の方で、領主さんお墨付きの腕利きだったらしいわ。その人が言うには、この町は呪われた土地だって話よ」
「呪われた土地……?」
呆気に取られるソールを横目に、クレアは語り続ける。
「呪い師の方が言うには、このイーユの町はこれまで農業で繁栄を築いてきたけれども、それは飽くまでも偶然の産物……、呪われた土地では作物がやがて育たなくなるのは分かり切っていたって。つまりは農業が衰退していくことは昔から必然的なことだったということらしいの」
(呪い師、ねぇ……)
クレアの話の中に散りばめられたワードに、ソールは怪訝な反応をする。
「だからこそ、これまでのやり方ではこの町が生き残るのは難しいから、これからは工業を中心とした発展都市を目指すべきだって。領主さんが前から言っていたことが現実になってきたって感じかしらねぇ……」
黄昏ながら語るクレアに、ソールは掛ける言葉が見つからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます