第29話 旅立ちの朝
翌朝、ソールは
「ん?ソールじゃないか。そんな荷物持って何処か行くのか?」
ソールの部屋の前で一人の少年と出会った。それはソール達の昔馴染みのロイだった。
「あぁ、ロイか」
一瞬、ソールは事情を話すまいか悩んでいた。昨晩のルナとの会話が脳裏を過ぎり、
(……一人で抱え込むより、頼った方がいい、か。それに、ルナと同じ程の付き合いのロイになら)
「……実は」
そうしてソールはロイに事の顛末を話すことにした。ただし、余計な心配を掛けないために魔導のことは伏せてここ数日に起きた出来事の説明をしたのだった。
「……なるほどな、それで旅立とうという訳か」
「うん」
「そっか、それじゃ、引き留めるのも違うよな」
「止めないんだね」
「何だ、止めて欲しかったのか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど」
「大体、お前を止めても無駄だって分かってるからな」
ロイが腕を組みながら続ける。
「昔から妙なところで頑固なところがあったし、今回もきっと自分のためだけって訳じゃないんだろ?」
見通しているかのようなロイの言葉に、ソールは照れくさそうにした。
「その様子だと大方想像通りか」
「……まあね」
魔導のことに関してロイに話していないことに、ソールは少し罪悪感を覚えた。
「そっか……。ま、俺に出来るのはある程度事情を学院に話しておくくらいなんだが」
「それでも十分有難いよ」
「本当は俺も付いて行きたいんだけどな」
「ごめん、それは」
「分かってるって。お前のことだ、きっとまた変な気を遣うに決まってる。いや、もう気遣ってくれてんのかな?」
「……」
あまりの勘の鋭さに、ソールは静かになってしまった。
「ま、後のことは任せときなって」
「……ありがとう」
ソールは深々と頭を下げながら言った。それは心からの感謝の証だった。
「ただし、一つ条件がある」
「条件?」
何事かとソールは首を傾げる。そんなソールにロイは指を指しながら言う。
「……必ず、無事で戻って来い。それが唯一の絶対条件だ」
「……うん、約束する」
そうして二人は互いの手を強く握りしめた。信頼と友情、それらを再認識するかのように。
「あ、来た」
先に支度を済ませ、広場で待っていたルナが歩いてくるソールを見つけた。
「おまたせ」
「ううん、私もさっき終わったところだったし」
「そっか」
「ねぇ、ロイと話したの?」
何処で聞いたのかは分からないが、彼女はロイの名を出した。
「うん、まあね」
「……そっか」
「分かってくれたよ、ロイは。だから、大丈夫」
「うん……絶対、帰って来よう!」
「当たり前だよ」
歩きながら話していると、時計店の近くまでやって来た。すると、一人の老人と遭遇した。
「おぉ、ソル坊にルナちゃん。そんな荷物持ってどうしたんだ?」
時計店の古株、ケイトだった。
「ケイトさん、実はちょっと街を出ることになって」
「ほぉ、そいつぁまた結構なこった」
ケイトは敢えて何かを二人に訊くということはしなかった。ケイトは微笑みながら、
「この街も十分じゃが、世の中にはもっと広い世界が広がっておる。西に行けばカシオズの街というそれは大きな街もある。世界を知るのは良いことだ。何の用かは知らんが、気を付けて行って来な」
と、見送りの言葉を代わりに告げた。
「うん、行って来ます」
去って行く二人の背中を、老人は見えなくなるまで静かに見届けていた。
そうして歩いていくと、今度は宿屋の前までやって来た。
「あ、お二人さん。何処か行くの?」
そう声を掛けてきたのは、宿屋の女将アンナだった。
「アンナさん、ちょっと旅に出ようと思って」
「そうかい、それなら、いいもんがあるよ」
と、アンナは宿屋の中に入り、少し経ってから戻って来た。
「はいこれ、持って行きな」
そう言って渡されたのは、二人分の弁当だった。
「え、いいんですか?」
すかさずルナが訊く。
「いいのよ、どうせ余りもんから作ったんだし。それに……」
そう言い、アンナは首から下げたペンダントを見た。
「アンナさん、それは?」
「あぁ、これかい?これは写真さ。妹のね」
アンナはペンダントを開けた。その中には、二人の少女が写っていた。
「名前はマキって言ってね。生きているかは分からない。でも、もし生きているならあんた達と同じくらいになってるかもね」
「……そうですか」
「あぁ、ごめんね、変な気を使わせちゃって」
「いえ」
「……あ、そうだ。あんた達、旅に出て妹ともし逢ったら、私が心配してたって言っておいてくれるかい?」
二人にとっては思いがけないことだったが、断る理由はなかった。
「はい、もちろん」
「ありがとね……引き留めて悪かったね。行ってらっしゃい!」
「はい、行って来ます」
そう言って二人は宿屋を後にした。果たして、二人は生まれ育ったジーフの街を出たのであった。
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