第2章:イーユの町

第30話 踏み出した矢先

 ソールとルナは街から出て約三時間、ひたすらに歩いていた。どれだけの距離を既に歩いたか見当は付かないが、道中の森林の中ソールは懐中時計で時刻を確認する。


(普段だったら、授業を受けてるんだよね)


 今更ながらソールはルナに訊きたくなったことがあった。


「ねぇ、ルナ。本当に良かったの?僕に付いて来るなんて」


「何よ、今更。もう来てるんだからしょうがないでしょ?」


 至極当然のことを返され、思わずソールは黙ってしまう。


「それに、私は付いて来たかったから付いてきたんだよ。ソールが気にすることじゃないって」


 ソールのことを気遣ってか、ルナはそんなことを言う。続けて彼女は、


「ま、昔からソールは泣き虫だったしね。それに何かと心配だから、ね」


 その言葉に、ソールは気恥ずかしそうに俯いていた。そんな話をしながら歩いていると、


「……ねぇ、ところでそろそろ休憩にしない?」


 ルナが言ってきた。そう言われたソール自身も、流石に歩き続けで疲れが募っていた。


「そうだね、アンナさんからお弁当も貰ってることだし、休憩し」


 言いかけた時だった。ソールは歩いている視線の先に、あるものを見つけていた。


「どうしたの?ソール」


 当然のようにルナが疑問の声を発した。


「……誰かいる」


「え?」


 ソールの言葉に反応し、彼女もその先を見るためにじっと目を凝らす。すると、確かに遠くの方で倒れこんでいる人影が見えたのだった。


「ホントだ、行ってみよう!」


 ソールとルナは走ってその影の所へ向かった。二人が駆け寄ってみると、その倒れている人影の正体は一人の少年であることが分かった。


「君、大丈夫!?」


 ソールが心配そうに少年に声を掛ける。少年は灰色の短髪をしており、見た所ソール達よりも年齢的に低そうに見えた。そのため余計に心配の念が強くなる。


「う、うぅ」


 少年が呻き声を出し、目を覚ます。


「……あれ、ここは?」


「良かった、目を覚ました!」


 少年が目覚めたことで、ソール達は一先ず安堵する。


「……誰?」


 少年が目の前の二人に問いかける。


「私達は旅人だよ。私がルナ、でこっちの気の弱そうなのがソールね」


「気の弱そうは余計だって」


 ルナの言葉にソールがため息を吐き反論の色を示す。それにお構いなしにルナは続ける。


「君の名前は?」


「……クレイ」


「クレイ君ね、よろしく。立てる?」


 ルナは優しく少年に声を掛けながら手を差し伸べた。少年はその手を取り揺らめきながらも立ちあがった。


「ありがとう、お姉ちゃん」


 少年から発せられた言葉に、ルナは舞い上がった。


「ねぇソール、聞いた?私お姉ちゃんだって!」


 その眼はキラキラと輝きを宿していた。


「分かった、分かったから」


 ソールが激しく喜ぶルナをなだめながら、


「ねぇ、クレイ君。どうしてこんな所で倒れてたの?」


 と少年にすかさず質問を投げかけた。


「……」


 すると少年は言い辛いのか、押し黙ってしまった。


(何か言えない事情があるのかな?)


 ソールがそう思った時だった。




ぐぅ、と少年の腹から大きな音が鳴った。


「……もしかして、お腹空いてるの?」


 ルナが訊く。すると少年はコクリと小さく頷いた。


「……!そうだ、良いものがあった」


 思い出し、ソールは肩から提げた鞄から包みを一つ取り出した。


(アンナさん、いいよね?)


「はい、これ食べて」


 そう言って取り出したのは、アンナから渡された弁当だった。

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