第28話 明日への決意

 その夜、ソールはベッドの上で頭の後ろに手を組んで考えていた。


「……どうして、あの時」


 彼は夕方のことを思い出していた。


(どうして、力を使えなかったんだろう……?)


 思えば、初めて懐中時計の力を行使した時は無我夢中で、その後の記憶もなかった。そもそも彼には力の使い方が分からない状態なのだ。そんな自分自身の状況を冷静に俯瞰ふかんし、彼には思う所があった。


(カシオズの街に行くとして、その道中で今の僕がまた襲われた時、身を守ることが出来るのかな)


 そう考えていた時だった。


「ソール、居る?」


 ドアをノックする音と共に、ルナの声が聞こえてきた。


「……?いるよ」


 ドアを開き、少女と顔を合わせる。


「あ、よかった」


「え?」


「だってソール、さっき外に血相をいて出て行っちゃったじゃない?」


「あぁ……見られてたんだ」


 衝動的なことだったとはいえ自分の行動を思い出し、少年は恥じらいを見せた。


「うん、それでどうしたんだろうって思って」


「そっか……また、心配させちゃったね」


 ソールは部屋の中に引き返し、先程自分が見ていた手紙を机から取り出した。


「これを読んでたら、ちょっとね」


「手紙?」


 ルナも手紙に目を通す。読み終えた時、ルナの眼光は見開いていた。


「……!これ、もしかして」


「うん、僕もそう思って、居ても立っても居られなくてね」


「なるほど、そうだったんだ」


 ルナは少し考えた後、


「……ねぇ、ソール。ソールはカシオズの街に行くつもりなんでしょ?」


「……うん」


 ルナの問いに、躊躇ためらいながらもソールは答えた。


「なら、私も行く」


「ルナ!?」


「だって、ソールってばまた一人で抱え込んでるんだもん」


「それは……」


 ソールは否定しきれなかった。少女の指摘したことが事実だったからだ。


「……だって、ルナを巻き込みたくない、から」


「もしかして、今日のこと?」


 その言葉でソールは再び思い返し、拳を強く握りしめた。


「今日だけじゃないよ。これまでの魔導士の襲撃……全部、僕のせいで」


「そんなことないよ」


 塞ぎ込みながらソールがつむいだ言葉を、ルナは一蹴する。


「だって、ソールは私を守ってくれたじゃない」


 ソールは顔を上げる。その時に見たルナの表情は慈愛に満ちたものだった。


「私もただ守られるだけなのはイヤ。だから、私はソールの力になりたい」


 少女は懸命に言葉を紡ぐ。その胸に秘めた心情を吐露しながら。


「それに、私にはこれもあるから」


 そう言ってルナはある物を取り出す。それは、星祭りの際にソールが彼女に渡した星飾りだった。


「これが、ソールが私を守ってくれる。そうでしょ?」


「……ありがとう」


 短くソールはお礼を言った。


「それじゃ、明日にでも出発しよ」


「え、急に!?」


 唐突な少女の提案に、少年は度肝を抜かれる思いだった。


「善は急げって言うよ。それに、この街に居てもまた襲われる可能性が高くなるだけ、そうでしょ?」


「それはそうだけど……」


「じゃあ決まりね!そうと決まれば準備しよ!」


 そう言った彼女は自室へと戻って行ったのだった。


(まったく、勝手なのは相変わらずだなぁ)


 そう思いながらも、少年の顔には笑みの色が浮かんでいた。

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