第27話 手紙と焦燥
「じゃあね、ソール」
「うん、また明日」
ルナと別れ、自室へと戻ったソールは早速手紙を見ることにした。
「一体、誰からなんだ?」
手紙の入った封筒を見ても、差出人の名前は書いていなかった。
(差出人の名前は無し、か。)
少し疑問には思ったが、好奇心の方が勝ったソールは思い切って封を開けた。
「何が書かれているんだろ?」
手紙の内容は次の通りだった。
『拝啓、ソール様
お元気ですか?あの頃からどれほど成長したのか、私は気になっております。しかし、貴方とまだお会いすることは出来ないのです。貴方がいつか、今よりももっと逞しく成長した時、貴方とお会い出来る日を楽しみにしています。
さて、貴方はジーフの街に居るかと思いますが、これから様々な障害が貴方の前に立ちはだかることになるでしょう。
カシオズの街に行くのです。そうすれば、貴方の知りたい全てがそこに隠されているはずです。長旅になると思うので、その際はどうかお気をつけて』
「……」
(もしかして、『あの人』が……)
「……!」
部屋を飛び出し、外へと出て行った。寮の外にまで出たソールは周囲を見回してみた。しかし、当然のことながら手紙の差出人らしき人物の影は何処にもなかった。
「……」
ソールは改めて手紙に目を落とした。そして、その中の一文を凝視する。
『カシオズの街に行くのです 』
「カシオズの、街か」
カシオズの街は、ジーフの街より遥か西方に位置する王国の中心都市だ。その大きさはジーフの街とは比にならない程に大きく、王国騎士団や王立大図書館、さらには大教会といった様々な機構の拠点となっているのである。
「……行ってみる価値はあるかも」
そう言って少年は空を仰いだ。少年の眼に映った夜空には、星が幾つか光を宿していた。
同時刻、とある宿屋にて。
「ねぇ、ヴァーノ、本当に良かったの?」
一室に二人の魔道士が居た。
「何だよ、そもそもお前がやり始めたことだぞ、ウォル」
「それは、そうだけど……」
ウォルが申し訳なさそうにしていると、
「お前のそういうところも相変わらずだよな」
ヴァーノはため息混じりに言った。
「まったく……情が湧いたか知らんが、あの時計は」
「分かってる」
ウォルが言葉を遮るかのように続ける。
「大丈夫。時計はちゃんと、あの子から渡してもらおう」
ウォルが部屋の窓に近づき、手を当てた。そして彼女は夜空に浮かぶ月を眺めながら、
「私達の、未来のためにも」
その言葉を聞き、ヴァーノは自らの拳を強く握ったのだった。
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