第26話 少年は時計を手に取り、そして

 時計に秘められた事実を知ったソールは、目の前の相手に渡すかどうかを迷っていた。その時、


「ダメだよ、ソール」


 またしても、ルナが横からソールを制止した。


「ルナ?」


「どういうつもりだ、お嬢さん」


 男が怪訝けげんな表情を示す。


「どういうも何も、だって貴方達のこと、まだ信じ切った訳じゃないもの。さっきから聴いていたけど、その話だって私達を騙して時計を奪うために吐いた嘘かもしれないじゃない。それに、この時計はソールが命の恩人から受け取った大切なものだもの。貴方達には簡単に渡せない!」


「ルナ……」


「それに貴方達だって、この前襲ってきたじゃない!そんな人達の言葉なんて、信じられない」


「……なるほど、随分と利口なお嬢さんだ」


 男は何処か関心したような口ぶりで言った。


「分かった、ここは退こう」


「え?」


 思いがけない言葉に、ソールは疑問の声を発した。


「……いいの、ヴァーノ」


「あぁ、興が覚めた」


「……そっか」


 女がそう言うと、二人組の魔導士達は公園の出口へと静かに歩き始めた。


「……待って!」


 その二人を、ソールが引き止めた。


「何だ?」


「その……ありがとう、ございました」


「……礼ならコイツに言うんだな」


 そう言って男は隣の女を親指で指した。


「……ありがとうございます」


「……」


 ソールに言葉を掛けられ、女は静かに首をコクリと傾け一礼した。


「一応言っておく」


 男が去り際に言った。


「オレはヴァーノ。そしてコイツはウォル。また逢うことになるだろうよ」






 二人組の魔導士が公園から去り、暫くした頃。ソールとルナは、未だ公園にいた。


「今日も色々あったね」


 ルナが口を開いた。


「うん、そうだね」


「それにしても、あの魔導士って奴ら、やっぱり感じ悪いよ」


「そう、かな?」


 ソールはルナの言葉に引っ掛かりがあったのか、


「僕には、あまり悪い人達には見えなかった」


 と言った。それに対しルナは、


「……本当にソールは優しいというか、お人好しなんだから」


「ふふっ、そうかもね」


 笑うソールの顔は、不思議と昨日までの顔つきに比べて何処か穏やかだった。


「笑いごとじゃないよ」


 対照的に、ルナはむすっとした態度をとって見せた。






 二人はジーフ学院の寮に帰ってきた。その時だった。


「おぉ、ソール君。探してたよ」


 寮に属する見回りの教員が、ソールに声を掛けた。


「何ですか?」


「君宛に手紙が届いとるよ」


「僕に?」


 ソールには全く心当たりがない話だった。しかし受け取らない訳にもいかなかったので、ソールは教員から一通の手紙を受け取った。


「……何だろう?」

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