第23話 思わぬ助け舟

 ルナの声に反応してソールは、ふと考え事で下げていた頭を上げて周囲を見渡した。


「……なるほどね」


 ソールとルナはいつの間にか自分達の周りを十数の人で囲まれていた。しかし、取り乱しそうなルナに対してソールは不自然な程に落ち着き払っていた。


(やっぱり、また襲って来るか……)


 囲まれている中、ソールは冷静に人々を観察していた。ソール達を取り囲む人々は何処か目が虚ろで、意識がはっきりしている様子は見られなかった。


「……」


「う、うぅぅ」


 周りの人々はただ黙っている者もいれば、何処かうめき声にも似た声を発する者もいた。その様子はこの光景の不気味さを増幅させていた。


(どうやら、また魔導みたいだな)


 周囲の表情から、ソールは解を導き出した。


(でもどうする?今はルナと一緒にいる……。僕一人ならともかく、二人で逃げようにもこの数は流石に上手く撒けるかどうか……)


 そもそも、この状況では何処まで逃げればよいのかすら分からない。目の前に広がるどうしようもないほどの敵に、ソールは歯噛みした。


(……!そうだ、こういう時こそこれで)


 そう思い、ポケットの懐中時計を取り出した。しかし、いくら前に掲げても振ってみても時計は何も反応を示さなかった。


(何で……!?ルナの話じゃ、昨日は力を使えたんじゃなかったの!?)


「くそっ、どうする……」


「ソール……」


 ルナがソールの腕にしがみ付く。その行動にソールは、自身の腕に力を入れ、気を引き締める。ルナが、そして自分自身がこれ以上不安にならないためのまじないのようなものだった。


(もうこうなったら、僕が突進してる間にルナだけでも逃がすしか……)


 そう考えた時だった。






 ソール達を中心に、突如として水の柱が円形に広がった。


「ううぅぅおぉぉぉあぁぁぁぁ!?」


 周囲の人々が言葉にならない言葉を発した。


「な、何だ!?」


 ソール達も何が何だか分からない状況だった。しかし、その事象によりパニックになった群衆の間には隙間が出来ていた。


「こっち、早くして!」


 何処かで聞いた覚えのある声が、その隙間の向こうから聞こえてくる。


(考えている時間は、ないか……!)


「行こう、ルナ!」


 そう言うとソールはルナの手を強く握り、一直線に人の隙間へと駆けて行く。


「……!?あなたは」


 駆け抜けた先には、ローブを羽織った青髪の女性が立っていた。


「何で、どうして」


「今、話している時間はないわ。とにかく、こっちに」


 導かれるまま、ソール達は街中を駆けて追っ手から逃げていった。

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