第22話 学院、その夕刻

 結局のところ、ソールとルナの聞き込みは無駄足に終わった。ロイをはじめとしたクラスメイトだけでなく、他のクラスの生徒にも訊いたが、昨日の騒動について知っている者は誰一人としていなかったのである。そして、聞き込みを終えた頃には放課後になっていた。


「結局、誰も知らないの一点張りだったわね」


「うん……、あれだけのことがあったんだから誰か一人でも知っててもおかしくはないんだけどな」


 昨日二人が襲撃者ギルと遭遇した場所は、街の中では普段であれば人通りが多い方だった。それは学院の生徒も意味もなくそこを通る程だが、昨日に至っては例外だった。


「『何か昨日おかしなことはなかったか』なんて訊いても、誰もが通りの巨大な凹みがいつの間にか出来ていた、ってことしか知らなかったからね」


「もう、どうなってるのよー!」


 ルナは髪を手で掻いてくしゃくしゃにした。


(……それだけ『魔導』ってものが強力で得体の知れないものってことか)


 その傍らでソールは自分の中で肌感覚で魔導の不気味さを痛感していた。


「まぁ、考えても仕方ないし帰ろっか」


「そうだね」






 学院から帰ろうとしたソールとルナは、帰り道で一人の老人と出会った。


「おぉ、お前さん達、探しとったぞ」


 それは時計店の老人ケイトだった。


「こんにちは。どうかしたの?ケイトさん」


 ルナが当然の疑問を発する。


「昨日なんだがな、お前さん達が居なくなった後に一人の客が来てな。その客が怪しい素振りをした後出て行ったんだが……、大丈夫だったか?何事もなかったか?」


 その言葉に、ソールとルナは顔を見合わせた。


「「それだ!」」


「ほぇ?」と老人は素っ頓狂な声を上げた。


「ケイトさん、その人って何か特徴はなかった?変な格好してたとか、何かしてたとか」


 ソールの質問に、ケイトは顎を手で撫でながら、


「そうは言ってもなぁ。ローブを被ってて何やら店の中で手を上げたり回したりしてたくらいかなぁ」


「何だかよく分からないことしてたんだね」


「そうさなぁ。まぁお前さん達が無事で何よりだわい。じゃあな」


 そう言い終えると、老人は腰に手を当てて歩いて行った。


「……どう思う、ルナは?」


 老人を見送ると、ソールが投げかけた。


「そうだね、何か、昨日襲ってきたヤツとはまた違う気がする」


「やっぱりルナもそう思う?」


「何となく、だけどね」


 そうやってお互いの考えが合致しているのを共有した。


(昨日襲ってきたギルとかいう男は、激情に流されやすそうなヤツだった。それに比べてケイトさんの話の人は落ち着き払っていたみたいだったし……そもそもの性格的に違うだろうな)


 ソールは自分の中で考えをまとめていた。その時だった。


「……!?ソール!」


 突如として、ルナが悲鳴混じりの声を上げた。

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