第20話 これから……

 二人がソールの部屋に帰って来る前まだは昇っていた太陽も沈み切った頃。


「じゃあ、そろそろ私も戻るね」


 そう言ってルナは自室へと帰ろうとする。


「あ、待ってルナ」


 そこでソールが呼び止めた。


「ねぇ、明日何だけど……」


「学院のこと?」


「うん」


 ソールが心配しているのは、学院への通学だった。学院にはソール達以外にも多くの生徒が居るため、襲撃者達がいきなり襲ってくる可能性は低い。しかし、それもゼロとは言い切ることが出来ないのだ。


「私は行くよ。何だか、このまま逃げているだけじゃダメな気がするから」


「……そっか」


 その返答に、ソールは驚く素振りを見せなかった。というのも、彼女がそう言うのは予め想定していたからだ。


「ソールはどうするの?」


「……僕も行くよ」


「そっか。じゃあ一緒に行こ」


「うん」


(当たり前だ。標的が僕だとしても、ルナを一人になんてさせられない……)


 少年は心の中で呟いた。


(ルナは、僕が守らなくちゃ)






 ソールとルナが談笑しているその頃、街はずれの道で男が一人歩いていた。


「……くそっ、何なんだよアイツの力は!?」


 男はふらふらとした足取りで、左肩を手で押さえながら怒号を飛ばしていた。通常であれば道行く人の目に留まってもおかしくはない挙動なのだが、何故か人々は彼の存在などないかのように次々と歩いて行った。


(この俺がやられるなんてありえねぇ。一体何をしやがったんだ?)


みじめだな、ギル」


「!?」


 声のする方へと男が振り返る。そこには、男女が並び立っていた。


「ヴァーノにウォル、お前ら見てやがったのか!?」


「あぁ」


 ギルの問いかけに、ヴァーノと呼ばれた冷静な男は短く答えた。


「何故お前がここにいる?」


 今度は男がギルに対して疑問を投げかける。


「ふん、お前らがもたもたしてるから俺が『アレ』を取りに来たんだろうが」


「だからどうしてお前が来たと訊いている。この件はオレ達の仕事のはずだ」


「何も知らないんだな、お前らは」


「……どういう意味だ?」


 ヴァーノは平静を装っていたが、その眼には怒りの色がはっきりと表れていた。


「お前らは見限られたんだよ、『教会』にな。いつまで経っても時計を持ち帰らずにいるんだ、そりゃそうなるぜ」


「……だからって、あんな手を使ったの?」


 ウォルと呼ばれた女の方が問いだした。


「まだそんな甘ぇこと言ってんのかよ。へっ、可笑おかしくて笑えてくるってもんだ」


 ギルは腹を抱える仕草をした。それは、相手を馬鹿にするためだけの動作でしかなかった。本人も自覚をしているらしく、二人の方を見ながら笑っていた。


「だがお前も失敗しただろう」


 その言葉に、ギルはピクッと反応した。


「お前は強硬手段を取ってしても、『アレ』を奪えなかった。寧ろ、『あの力』を少年に使わせてしまった。これはお前の落ち度だぞ」


 飽くまでも私情は挟まないように、冷静にヴァーノは告げる。


「時計が『目覚めた』……この意味、お前が分からないはずもないだろう?」


「……チッ」


 舌打ちをすると、あからさまに不機嫌な顔でギルはヴァーノを睨みつけた。


「とにかく、この件はオレ達に任せてもらおう。お前はこれ以上余計なことはするな、いいな」


「さぁな、それは『教会』次第ってことだ」


 そう言い残し、ギルは暗闇へと消えていった。


「……ねぇ、ヴァーノ」


 ギルの姿がなくなったことを確認すると、ウォルが口を開いた。


「あぁ……分かってる。あぁなってしまった以上、仕方ない」


 ヴァーノは何かを再び決心したかのように、ただギルが消えていった暗闇を見つめていた。

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