第19話 二人の回想

 しばらくして、落ち着きを取り戻したソールはルナから離れた。二人は部屋のベッドに隣合わせで腰掛けた。


「……ありがとう、ルナ」


「もう大丈夫?」


「うん、平気」


「そっか。……ふふ、やっぱりソールは泣き虫だよねぇ」


「なっ!?さっきの優しい感じは一体何処へ?」


「だって本当のことじゃない?昔私がいじめられていた時に助けてくれた後だって、一緒に泣いていたじゃない」






『やーい、茶赤髪が来たぞー』


『うえぇぇぇん』


 その少女は、自分の髪の色が他の子どもよりも珍しいということで虐めを受けていた。というのも、少女の髪はただの茶色ではなく赤色混じりの茶髪だった。その色は街では珍しく、子ども達の間では好奇と怪訝けげんの目で見られることが多かった。少女は周りを囲まれ、うずくまりながら泣いている。


『お前そんな髪の毛で恥ずかしくないのかよー』


『何でそんな風に生まれてきたんだよー』


 少女に浴びせられるのは、彼女の生命と、尊厳とを冒涜する言葉。それらは理不尽に、一方的にか弱い少女に降りかかる。


『う、うぅっ』


 少女が泣きながら家に帰ろうとした時だった。バッと、彼女の前に人影が現れた。


『な、何だよお前っ!』


 いじめっ子の一人が、突然現れた影に向けて言う。


『だ、ダメだよ。この子をいじめないで!』


『何だとコイツっ!やっちまえ!』


 そしていじめっ子の集団は、助けに入った子どもに一斉に襲い掛かった。






『……大丈夫?』


 少女が倒れた少年に声を掛ける。結局、助けに入った少年はいじめっ子達には勝てなかった。そもそも、数が違うのだ。それは勝負する前に少年自身にもよく分かっていたことだった。


『う、うぅ』


 少年は倒れこみ、空を仰ぎながら泣いていた。


『どうして助けてくれたの?』


『……ほっとけなかったから』


 少女の問いかけに、泣きながらも少年は答えた。


『どうして?』


『だって、きみがないていたから』






 思い出し、ソールが恥じらいの表情を示した。


「いやあれは……」


「ほら、言い返せないんだもん。分かってるクセに」


「……フッ、それもそうかもね」


 半ば諦めたように、ソールは苦笑した。しかしその笑いは、普段通りの会話を楽しんでいるような、安堵を含んだ笑いのように見えた。


「あっ、やっと笑った」


「え?」


「だってソールってば、昨日から張り詰めたみたいな顔をずっとしてたから。ちょっと安心した」


「……そっか」


 そう言われたソールは、今日の今という時までの自分を顧みた。確かに、そうだったのかもしれないと思い出しながら痛感したのだった。


「ありがとう、ルナ」


 そう言うとルナはクスッっと笑いながら、


「変なの。さっきまでお礼を言ったのは私なのに」


「……それもそうだね」


 今まで緊張していた反動もあり、ソールは笑顔で返した。

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