第18話 休息と涙

 ジーフ学院の学生寮に戻ってきた二人は、一旦ソールの部屋に一緒に行くことにした。


「大丈夫?ソール」


「うん、まだ身体が重いけどね」


 妙な身体中に感じる重さに、ソールは違和感も感じていた。筋肉痛のようなものとはまるで違う、不可解な感覚だった。


「ほら、着いたよ。ソールの部屋」


 身体に掛かる負荷に耐えながらも、二人は建物の二階にあるソールの部屋に辿り着いた。


「うん、ありがとう」


(……さて、これからどうする?あいつらがまた襲って来ないなんて保障もない。このまま一緒にいたら、きっとルナだって……)


「……ねぇ、ちょっと入っていってもいい?まだ話したいこともあるし」


「うん、……大丈夫だけど」


 ガチャッ、とソールの部屋のドアが開く。二人は互いを支えながら一緒に入っていった。


「……やっと帰って来た、って感じね」


「うん、一日振りなはずなのにね」


(……まぁ、この二日間で二回も襲われてどうにか逃げ延びて来られたんだ。こんなに思うのもしょうがないか)


 心身ともにつかれたような表情をするソールに、ルナは掛ける言葉が出なかった。その時、彼女はアンナに言われた言葉を自然と思い出していた。




『ずっと傍にいるんでしょ?あなたになら出来るはずよ』




(ソールが元気ないのなら、私が……)


「あのねっ、ソール!」


 決心が付いたかのように、ルナは声を大きくした。


「何、ルナ?」


「ありがとね、助けてくれて!」


 ルナは彼女に今出来る精一杯の笑顔でソールに言った。


「えっ?」


「だって、また私を助けてくれたじゃない。昨日も、今日も」


「でも、……今日に限っては僕だけど僕じゃないんだよ?」


「そんなことないよ」


 ルナがさとすように続けて言う。


「たとえ覚えていなくたって、私は分かってるから。ソールが、私の為に頑張ってくれたんだってこと。だって、ソールは昔から変わらずに……ずっと傍にいてくれたから」


「ルナ……」


「だから私も傍にいるよ。そうすれば、きっと大丈夫。ソールはずっとソールのままだよ」


 ルナは少年を元気付けようと、自分の心情を精一杯の勇気を出して吐露したのだった。


(……見透かされてるな。僕のこの不安な気持ちも、恐怖も、全部)






 ソールは少女に言われる前、ある決心を固めようとしていた。彼は様々な感情を抱いていた。自分自身が何かとてつもないほどの力を手にしていると分かった今、何かが決定的に変わってしまうのではないか、自分が自分でなくなるのではないか、ずっと傍にいる大切な少女を傷つけてしまうのではないか、と。それが怖い今、選択肢は限られているのではないか、と。






 つまりは一人で解決をするため、誰も巻き込まないため、少女を突き離そう、と。




 そんな少年の心中とは対照的な少女の言葉に、ソールは安堵し、同時に涙した。


「ソール……?」


「あれ……なんでだろう?涙が……」


 ほろほろと、少年の頬を涙が伝う。それを見て、少女は少年を真正面から抱き寄せた。


「……ごめん、ルナ。僕は」


「大丈夫だよ」


 落ち着かせるように優しい声で、少女は少年に語りかける。


「私はずっと、ここにいるよ」


「……うん」


 少年はそうして、少女の腕の中で涙を流していた。

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